47 同・多満子の部屋(夜)
多満子、携帯で話しながら写真を見ている。
かつてミックス部門で優勝したときのもの。その時のパートナー、和明(7)。精悍な少年。
和明の声「懐かしいなあ、多満ちゃんとミックスを組んで県で優勝したの、もう20年前かあ」
多満子「私たち最高のペアだったよね!カズ君、今、市役所に勤めてるんでしょ?私さ、クラブでコーチ始めたんだ」
和明の声「多満ちゃんがいるなら僕もまたやってみようかな、すっかり運動不足だし」
多満子「ありがとう!で……ついでに相談があるんだけどね」
48 フラワー卓球クラブ(日変わり)
多満子、一同を集合させている。
多満子「クラブの経営が厳しいのは察してますよね?はっきり言います、このままでは閉鎖しなければなりません」
一同「……(動揺)」
多満子「どうにかして会員を増やさないと」
美佳「……チラシ配ったりはしたけど、なかなかね」
多満子「クラブをアピールするには方法は一つ。結果を出すことです。……みんな、全日本に出ません?」
一同「……(きょとん)」
元信「……何に出るって?」
多満子「全日本卓球選手権!」
一同「……(顔を見合い、冗談と解して苦笑し合う)」
多満子「笑うとこじゃありません。予選は連盟に登録すれば誰でも出られる。活躍すれば大アピールできる!」
元信「……多満子さん、どうやら私たちを買い被りすぎているようだね。私の通算成績は0勝35敗。自慢じゃないが、負けてもまったく悔しくない」
多満子「秘策があります。エントリーをミックスに絞るの」
一同「……」
美佳「ミックスって……男女混合ダブルス?」
優馬「(思わず)そ、そうか……!ミックスはエントリーが少ないから競争率が低いし、シングルスの前哨戦くらいに考えてる選手も多い。何より、ミックスを専門に練習してる選手はいないだろうから……」
多満子「あと1か月、ミックスだけを徹底的に鍛えれば戦える」
一同「……」
弥生「お嬢……それ最高のアイディア!クラブを救うにはそれしかないよ!みんな、やってみよう!」
元信、美佳、優馬、戸惑いながらもうなずき合う。
一人、輪から外れて聞いていた萩原。
萩原「……悪いけど、俺はそういうの……」
多満子「無理強いするつもりはないので、出たい人だけでいい。じゃペア決めましょう。弥生さんはカットマン同士、優馬君と。落合さんはご夫婦ペアね」
弥生「お嬢は?」
多満子「私の相手は、もう来る頃」
ガラッと戸を開けて誰かが来た。
和明「多満ちゃん」
多満子「ご紹介します!かつて当クラブ、男子の絶対的エースだった誰!」
和明、かつての面影もない太りよう。
和明「(ぜえぜえ)和明。ここまで歩いて来たら、膝やっちゃって……ちょっとこれダメかもしれない……病院行くわ」
和明、膝を押さえながら去って行った。
多満子「……」
萩原と目が合う。
萩原「……」
多満子「ペアを組み直しましょう!」
弥生は優馬と、元信は美佳とぐっと腕を組む。
多満子・萩原「……」
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