最後の一人

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の会社が警備を担当するリサイタルにおいて殺人事件が起こる。七海の最大のピンチにおいて、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城は「今がチャンス」と言い切り、次の一手を伝授する。そして物語は次の展開へ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第29回。

大我は顔をしかめながら、それらグロテスクな写真をパラパラとめくる。

「また、これは死体を処理する際の記録……」

児玉が言おうとするのを、大我が制する。

「もういい、わかった。児玉、この件はお前に任せる」

ありがとうございます、と児玉はもう一つの写真の束を引っ込める。その行動もはじめからそう言われるとわかっていたかのように、無駄がなかった。

それと、と児玉はあえて区切って、大我を見て言う。

「むしろ、今回の件はよかったのではないでしょうか」

たしかに、と大我は頷く。

「いい見せしめになったということだな?」

「仰るとおりです。これで、くすぶっていたすべての火を、鎮火できました」

怖い会話だと桐生は思う。

情報とは、どこから漏れて、どう広がるかが予想できない。あらゆる情報は、漏れると考えていい。

たとえ漏れたとしても、たいていは政治的な圧力で封殺することができる。ところが、それが通じない、「情報に未成熟な連中」が中にはいる。

特に最近ひどいのが、「相川アイズ」というコーナーを持つ、若手アナウンサー相川響妃である。「情報に未成熟な連中」は、正義感を振りかざして、事をややこしくする。しかし、たいていは、自らの生命にまで危険が及ぶことを示唆してやれば、その「正義感」を取り下げることになる。

たしかに、今回の「目白台」の標的は、岩井翔太だったが、岩井を標的にすることによって相川響妃とテレビ局にも警告を与えたかった。

最初は桐生たちも、一人のアナウンサーなど歯牙にもかけなかったが、姉川事件以来、相川響妃はスクープを連発した。ただし、全国的に人気のある相川響妃を標的にすることは難しいので、この勢いが本物になる前に、何かしら対応しておく必要があると考えていたのだ。

しかし、今回、あからさまとも言える手段で、岩井翔太を消したことは、「情報に未成熟な連中」にも効果があっただろうと桐生も思う。下手をすると次に標的にされ、綺麗に「イレーズ」されるのは、自分かもしれないからだ。

「残るは、一人か」

嘆息するように、大我は言う。

今回の件で、真っ先にリストの最上位に名前が挙がったのが、寺岡澄子であり、次に名前が挙がったのが岩井翔太だった。

そして、そのリストにはもう一人の名前があった。

「相変わらず、足取りは一向に摑めません」

児玉は無表情のままに言う。

「一向に摑めない? 国家権力をもってしてもか?」

大我は国家権力というところを強調して言う。

「ひとつ所に留まることは決してなく、同じ携帯電話を二日と使うこともありません。先日、宮城にいるとの情報を得て、エージェントを向かわせましたが、察知され姿を現すことはありませんでした。それ以降、どこにいるのか、まるでわかりません」

「それを我々に対する宣戦布告と受け取っていいな?」

「宣戦布告?」

そうだ、と大我は言う。

「逃げるのは、やましいことがあるからだ。国家転覆の意図があるとみていい」

そんな、とたまらず桐生譲が言う。

「本屋が、国家転覆ですか?」

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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