町おこしコンサルタントの災難

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」
女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強のマーケティング技巧」を持つ西城に弟子入りすることで解決しようとする七海。 しかし、七海が社長をつとめる「レイニー・アンブレラ」が警備を担当するイベントにおいて、大勢の前でクライアントを狙撃されるという事件が起こる――。 今話題の書店経営者が初めて書く本格小説、第27回。

町おこしコンサルタント岩井翔太は、さすがに意気消沈しているようだった。

響妃が毎日のようにテレビに出ているので、そして秋山自身もスタッフとしてではあるがテレビ局に出入りしているので、ともすれば、その価値を忘れがちになってしまう。

けれども、そうでない人にとって、テレビに出ることは、もしかして一生に一度あるかないかの大事件なのかもしれない。

秋山が運転する車の助手席には、岩井が乗っていて、先ほどからため息がやまない。秋山が岩井を送ると言ったのにはわけがあった。通常、出演者だからといって、車で送ることはまずない。

「ククリコクリコクの粉ですよね。岩井さんが言いたかったのは」

秋山が試すようにそう言って、岩井のほうを見ると、絶句していた。肯定以外の何ものでも ない。

警戒して、心を閉ざさないように、秋山は顔色を窺いつつ言葉を続けた。

「実は、僕も相川響妃と一緒に、あの群馬の山奥の老人ホームに行ってきたんですよ」

「じゃあ……」

はい、と秋山は頷く。

「僕たちは、死ぬ前の日に寺岡澄子さんと会っているんです」

そう言いつつ、ポケットから名刺を出して、秋山は岩井に手渡す。

「コードブレイカー編集長……。メディアの編集長なんですか?」

「はい、Webメディアの編集長をしています」

月間五万PV程度だけどね、との自嘲はこの際、胸にしまっておく。今重要なのは、岩井から知っていることを聞き出すことだ。

「道理で。あの相川響妃から連絡があるなんて、おかしいと思ったんですよ」

ようやく安心したのか、岩井は笑った。

「しかし、田舎の家族に何て言おうかな」

「田舎の家族って?」

「テレビに出るからって言ったら、親戚や近所の人たちに言いふらしちゃったみたいで、今頃、ひどくがっかりしているだろうなって思って」

案外、悪い人ではないかもしれない、とツーブロックにした横顔を見ながら秋山は思った。

「さっき、テレビでは途中になった話、よかったら、僕に聞かせてもらえますか?」

「編集長は、どこまで知っているんですか?」

編集長と呼ばれると、悪い気はしなかったが、さすがにちょっと後ろめたくなった。

「ダムに沈められた村には、ククリコクリコクの粉と呼ばれる虫歯の特効薬があった。そして、その最後の伝承者である余命三ヶ月、一〇二歳の寺岡澄子さんが何者かに殺された。そんな噂です」

フロントガラス方面を見ながら、淡々と秋山は言った。

「さすがです、編集長。噂には、続きがあって、ここからはちょっときな臭い話になるんですが」

「いいですね、きな臭い話、大好きです」

「その村出身のある人が、ダムが作られた本当の理由を摑んだというんです」

「ダムが作られた本当の理由? つまり、ククリコクリコクの粉の封印ですか?」

はい、と岩井は頷く。

「その情報を得たその人は、ダムの巨大な利権を裏でコントロールをして、莫大な資金と権力を握ったって」

本当にきな臭い話になってきた、と秋山は思いながら聞く。

「資金って、何に使う資金ですか?」

「選挙に使う資金ですよ」

岩井は自信に満ちた顔で断言する。

ってことは、と秋山は言う。

「その秘密を盾にして、中央を脅して、補助金や助成金を引き出して、選挙に出たってことですか?」

そうです、と岩井は神妙な面持ちで頷く。

「しかも、当選して、その莫大な資金を背景として、権力の階段を上り詰めていくことになった」

岩井は右肩上がりの線を描くように、手を斜め横に払った。

「え、ちょっと待ってください。それって群馬県の話ですよね。その限界集落出身で、権力の階段を上り詰めたってまさか……」

次の瞬間、何か短く衝突音が鳴った。

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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