町おこしコンサルタントの野心

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の会社が警備を担当するリサイタルにおいて殺人事件が起こる。七海の最大のピンチにおいて、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城は「今がチャンス」と言い切り、次の一手を伝授する。そして物語は次の展開へ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第26回。

秋山がテレビ局に着いたときには、スタジオの分厚いドアはすでに閉ざされていた。

「一〇二歳余命三ヶ月老女狙撃事件についての続報です」

秋山は、スタジオの外に設えられたモニターを見上げた。画面の中で神妙な面持ちでニュースを読み上げているのは、相川響妃だった。

秋山は、ポケットの中の漆塗りの容器を握りしめていた。殺される前日に一〇二歳の老女寺岡澄子に渡されたものだった。

あのときは半信半疑だった。けれども、寺岡澄子が殺されたことが、秋山には何かを証明し ているように思えてならなかった。信じがたい話だが、寺岡が言っていたことが本当だとしたら、話の筋が通る—。

そう思うと、寺岡から託されたこの容器を持っていることが怖くなった。

もしかしてこの中には虫歯の特効薬「ククリコクリコクの粉」が入っているかもしれない。もし、寺岡澄子が、この薬のせいで殺されたのだとしたら、今秋山が持っているものが、この世で現存する最後の「ククリコクリコクの粉」かもしれない。

容器のことは、新聞記者の父にも、そして、相川響妃にも伝えていなかった。

この事実をどう伝えていいのか、あるいは伝えていいのかどうか、わからなかった。

「今日は、亡くなった寺岡澄子さんと事件前に交流があった、町おこしコンサルタントの岩井翔太さんにお越しいただいています。岩井さん、どうぞよろしくお願いします」

画面が切り替わり、ツーブロックにした若い男性が映し出される。その胸元に「町おこしコ ンサルタント 岩井翔太」のテロップが入って消える。

秋山は、何か、嫌な予感がした。不安な面持ちでモニターを見つめた。

「岩井さんは、寺岡さんとどういう関係だったんですか?」

単刀直入が代名詞の響妃は、のっけから核心に切り込む。

おそらく、渡されていた台本と違ったのだろう、岩井は、面食らったように一瞬、言葉に詰 まり、目を泳がせる。どうも、テレビに出ているという現実に、自意識が過剰に反応してしまっているらしかった。顔が徐々に紅潮してくる。

響妃は構わずに続ける。

「町おこしコンサルタントを名乗られているということは、地方再生とか、そういったことを、国民の税金をもらってやっていると考えていいですか?寺岡澄子さんともそういった場で会ったと?」

まるで詰問するかのように響妃は言う。

そうだよな、と秋山は思う。響妃は常日頃、町おこしコンサルタントなどと名乗る自称コンサルタントを「補助金泥棒」と呼んで憚らなかった。世の中で最も嫌いな人種だと。

響妃は正直な性格で、たとえ隠そうとしても言葉の端々に嫌悪感が滲み出てしまうようだった。いや、そもそも、隠そうともしていないようにも見える。

「僕がやっていることは……」

「あなたのやっていることはいいんです、寺岡さんのことをお話しください」

響妃がぴしゃりと言うのを、秋山は少し痛快に感じた。

番組の様子から見て、響妃は町おこしコンサルタント岩井翔太を自分の番組に出したくはなかった。それでも出しているということは、岩井しか知り得ない情報があるということなのだろう。

そう考えると、嫌な予感が拡大して再燃した。

「前に、群馬の限界集落を活性化させるための、町おこしプロジェクトがあって、そこで妙な噂を聞いたんですよ」

「妙な噂?」

「『不老長寿の薬』を作れる村があったって」

「不老長寿ってそんなまさか」

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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