本日の与田スクールのテーマは、「今、ベールを脱ぐ、お客様の要望に100%応える画期的新商品〈スーパー現場の会計〉!」という派手なタイトルだ。久美はもう30分以上話し続けていた。
「——ということで、本日ご紹介したのは、お手元のリストにある100件以上のお客さんのご要望にすべてお応えした、画期的な新商品〈スーパー現場の会計〉です」
与田はあくびをかみ殺しながら、面白くなさそうに聞いていた。久美は与田を無視して続ける。
「みなさんが知らない、生のお客さんのご要望に応えた商品です。成功間違いなしです。以上です」
久美のプレゼンが終わったのを見届けると、与田がさっそく質問した。
「〈画期的新商品〉とかいうお話って、それだけですか?」
「そうですよ。お客さんの要望やそれに対応する機能、開発スケジュール、コスト、価格も説明したとおりです」
心の中で、(アンタ、眠そうにしていたけど、ちゃんと聞いていたんでしょうね)とツッコミを入れる久美。
「では質問です。この新商品、どんなお客さんを対象にしているのですか? そのお客さんはなんで困っていて、この商品はどう応えてくれるのですか? そして、今回強化するとおっしゃる機能って、その機能があればお客さんが絶対に買いたくなるものなのでしょうか?」
「はあ。やっぱり私の話、聞いていなかったんですね」
久美は(心底がっかりしたわ)という感じで肩を落とした。しかし、すぐに気を取り直したのか、勝ち誇ったように言った。
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