——長いキャリアを持つ坂東さんですが、もともと声優の仕事を始めたきっかけは?
今は声優の養成所がたくさんあって、そこで基本的なことを学ぶというのが第一歩のようになっていますが、そういうところには通っていないんですよね。出身としては、お芝居の劇団ということになります。だからじつは、心の奥底に「学歴コンプレックス」があるんですよ。どうせ声優向けの発声とかをちゃんと習ったことがない劇団上がりですよ、という拗ねた気持ちがどこかに残っていて。

——では、途中で進路を転換したのですね。
ええ、最初は普通に俳優になりたいと思って劇団に入ったんですが、体格的に小さいとどうしても舞台では見劣りして、なかなか良い役がもらえない。ところが、たまたまオーディオが好きで音響効果の手伝いをしていたら、そっちの方でなかなかやるじゃないかと認められた。それを声優の仕事をしていた劇団の先輩が知って「音響が得意ならやってみるか?」と声をかけてくれたんです。
ちょうどそのころ、テレビアニメの『シティーハンター』がはじまったんです。この番組は毎週大量に「悪い男」の役が出てくるので頭数が必要で、ほぼ毎週収録に呼んでいただけるようになった。そのうちに『太陽の勇者ファイバード』という番組のオーディションに合格して、ロボットの役を一年レギュラーでやらせていただく事になりました。やっぱりレギュラー出演が勉強になりましたね。
ただ、週に一度の声の仕事が入ると、二か月間の舞台公演などはスケジュールに入れづらくなってきて、両立は難しいなと思った時に決心して声優事務所に移籍しました。気づけば声優名鑑に名前が載っていたり、本当に徐々に業界でのポジションを作ってきた感じですね。
——養成所に通ったりはしていなかったとすると、声優としてのスキル、ノウハウはどう身につけていったのでしょう。
編み出しました、一つずつ。我流といえば我流ですが、すべて実践しながら理屈に合うやり方を探ってきたつもりです。声優の発声はやはり独特で、歌うときの発声なんかとはまた違います。歌の場合は、吸い込んだ息をいかに効率よく吐いて音に変換させていくか、またどうやって息を長持ちさせていくかが大事。でも声優は違います。そのキャラクターにぴったりの声を出すために、時には燃費の悪い声の出し方も使わなければならない。たとえばマッチョな外国人の役を演じるとすると、当然太い声を出さないといけない。そう言う場合は気管を広げて、そこに息を強くぶつけるように一気に吐き出していく。やってみるとすぐわかりますが、まったく息が続きません。そういうやり方をいろいろと工夫しながら自分で体系立ててきたんです。

声優の場合、同時にたくさんの役をこなすことだってよくありますから、月に2つも3つも声の出し方を編み出さないといけなかったりする。けっこういろいろ考えないといけない事もあるんですが、たぶん、そのあたりを楽しめるかどうかが、声優をやっていけるかどうかの分かれ目になるんじゃないかと思います。「今度はこんな無茶な役か、どう演じればいいのか考えつかない!」なんて悩んでいるばかりじゃ続かない。「さーて、どう料理してやろうか」と、役を作っていく過程にワクワクできるくらいじゃないと長続きしないでしょうね。
自分が携わった作品が、実際にテレビで放送されるのを観るのも大好きですよ。自分の演技を見て納得したり反省してみたり、人がうまく演じているのを見てくやしがったり。いまだに子どものように一喜一憂しています。
——仕事のために日々、取り組んでいるトレーニングなどはあるのでしょうか。
ストレッチは欠かせませんね。かなり入念にやります。あまり知られていないでしょうが、身体の硬さは如実に声に出るものなんです。人が話すときというのは、口だけを使っているわけではない。舌の動きは首に直接つながっているし、首を支える筋肉は肩から胸にかけての筋肉とつながり……、とすべて関連がある。声優は、自分の肉体の足の裏まで口だと考えていなければなりません。
勘違いしがちなのは、筋力トレーニングをしっかりすれば声もよく通るようになるかといえば、そうでもないということ。たとえば、いい発声には腹式呼吸が大事だとはよく聞きますね。たしかにそうなのですが、だからといって腹筋を鍛えすぎると、声は細くなってしまいます。お腹を風船のように膨らませたり縮ませたりして自在に扱いこなすことが大事なのであって、そのときに鎧のような筋肉があると動きに制約ができてしまう。
何もスポーツ選手のような筋肉はいらないんです。ただ、声優に必要な筋肉というのがあって、それは実際にいろんな声を出して練習することで鍛えられていく。僕はいわゆる筋トレというのをほとんどしていないんですが、それでも力を入れるとちゃんと腹筋が割れるんですよ(笑)。全身を口にするような感覚が身について、吸い込んだ空気を操れるようになると、あとはそれを調整することでいろんな声が出せます。気管を太くして息を一気に使えば、先ほど言ったようにマッチョな外国人になれる。逆に気管を絞るようにして息がなかなか吐き出されないようにしていけば、おじいさんの声。空気の通り道をうんと細くして口もすぼめるようにすると、小動物がしゃべっているような声、といった具合です。
——役づくりをするというのは、役の気持ちになりきるといったことではなく、まずはそうした身体技術を身につけるということなのですね。
両方とも必要です。気持ちだけなりきってもイメージ通りの声が出せるわけじゃありません。声を出すための理論やトレーニングは必要です。かといって、役にぐっと感情移入するところがなければ、いくら技術があっても生かせない。宝の持ち腐れになってしまいます。
『宇宙兄弟』の福田さんの場合、感情移入するも何も、そもそも顔がそっくりなのだから無理なく同化することができました(笑)。その上で、年齢的な声の微調整をしたり、いつも落ち着いた雰囲気をうまく醸し出せるように気を配ったりしました。気持ちと技術、両方のバランスをとることができた例だと思いますが、どうでしょう。

少なくとも、僕自身はこの役を存分に楽しんでいる。それが、福田さんという役をまっとうできている証拠だと言っていいんじゃないでしょうか。
取材・文/山内宏泰

坂東 尚樹(ばんどう・なおき)
俳優、声優。北海道出身。劇団青年座研究所本科を卒業後、劇団新人会に所属。
1991年に『太陽の勇者ファイバード』にて初レギュラー(ガードスター役)を獲得後、積極的に声優活動を展開。その後はアニメ、海外ドラマ・映画の吹替え、ナレーションまで幅広い活躍をしている。2011年より声優塾「シャベルテック」を開設。後進の指導も行っている。
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