夢なのか現実なのかわからない一夜を過ごした後、ユウカは気だるい疲労感を抱えて、春の日差しの中、散歩に出ていた。
朝方、池崎がスーツに着替え忙しそうに朝食を済ませ、通勤電車に飛び乗るように出かけてからのユウカは、これまでのことを振り返っていた。
1年前の自分が、まさか横浜市の磯子区に住んでいるなんて想像できただろうか……。
ちょうど1年前は、たしか、大阪の北新地で働いていたはずだ。毎晩、夜の街で繰り広げられる客とホステスとの様々な恋模様に最初は驚いたものの、あっという間にユウカは馴染んでいった。
自分なんてとても無理と思いながらも、なんとかやっていけたのは、当時お世話になっていたアキという女性のおかげだ。
もっともアキに言わせれば、「どんな女でも夜の世界に適性はある、普段はそれを隠しているだけ」と断言するだろうけど。
「結局、あの街で池崎と出会ってるんだよね。不思議だよね、ほんと……」
青い空を眺めながら、そんなことを独り言でつぶやいた時、ポケットに突っ込んでいたスマホがぶるると震えた。
横浜に来てからは、連絡する人間も限られており、めったなことで電話は鳴らないのだが、この時は電話番号の方がユウカを呼んでいた。電話してきた相手は固定電話だった。0797で始まる番号に心当たりはなかった。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。