ちょっとずつ努力を積み重ねることで、道は開ける
私は、自分の仕事が大好きです。私は、自分の仕事に誇りを持っています。
就職活動の時には、華やかな雰囲気に憧れました。
企業法務を専門的に扱う弁護士として新聞の一面を賑わすような案件に関わりたい、テレビドラマに出てくるような洗練されたオフィスで仕事をしたい、プロフェッショナルとして最新のリーガル・イシューを扱う弁護士になりたい。
そういうややミーハーな気持ちを胸に、就職活動の時に相手をしてくれた弁護士の先生を憧れの目で仰ぎみたものでした。実際に弁護士になった今も、正直な話、ミーハーな気持ちが消えたわけではありません。「自分は今、大きな案件に関わっている」と思うと、気持ちが大きくなって、休日に妹にランチを奢ってみたりします。
でも、私の同僚の弁護士達、そして私が本当に自分の仕事を誇りに思うのは、そんなことが理由ではありません。
新人の私が最初の頃に先輩から与えられた仕事は、契約書のレビュー(確認作業)でした。私が契約書をレビューして、それを先輩がレビューして、それをさらに上司がレビューして……と続き、最後にクライアントに提出します。レビューリレーのような仕事のトップバッターを任されたのです。
しかしあるとき見覚えのない契約書が、先輩からクライアントに、上司と先輩の連名で送られていました。先輩は、私にこう言ったのです。
「ごめんね。今回の依頼は急ぎの作業だったから、山口さんに頼めなかったの」
その日の帰り道は、自分の役立たずっぷりが不甲斐なく、悲しくて悲しくて涙が止まりませんでした。
「急ぎの作業のときには、私に頼めない。私は戦力どころか、むしろ邪魔者だったんだ」
そう思いながら、一緒に仕事をする先輩の背中が、とても遠いことを痛感したのです。
「このままじゃいけない。先輩が、私にレビューを頼んだのは、決してボランティアじゃない。次を期待しているんだ、きっと。今はむしろ手間を増やしているかもしれないけど、先輩に修正してもらった契約書を隅々まで読んで、はやく一人でできるようにならないと。次は今よりもっとよくできるように、その次はさらによくできるように!」
毎日、そう思っていました。
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