なにしろ家庭における父親の味というものを知らないのだから【父親というものは、こういうものだ】とか【男の子は、父親と、このように戦うのだ】とか、もっと言うと【男とは、こうあるべきものだ】というのが、さっぱりわからない。わからないままでヒトシは大人になって父親になった。
さて、フミエとタカシの【出会い→結婚→ヒトシ誕生→離婚】のあまりのすばやさに唖然とした周囲の人々の一人は、フミエの恩師、すなわちフミエの医学博士号取得論文の指導を担当した慶應大学医学部大脳生理学教室の教授だった。
教授はいまで言うテレビによく出るお医者さん的な人で、現在50歳以上の人の中には子どものころ「頭が良くなるから、もっと料理にアジノモトをふりかけなさい、なんならアジノモトだけぺろぺろ舐めなさい」と親に言われて育った方がいると思うが、そのブームのもとである【グルタミン酸が脳の発達に良い】という説をとなえた人だそうである。
当時まだテレビは白黒だったろうが、ためしてガッテン的な番組がもうあったのであろうか(しかし、いま味の素のHP見たら「舐めても頭は良くなりません!」と公式に否定されていました)。その後は【ビタミンB1を強化した小麦粉で作ったパンを食べると脳の活動に良い】と言って、こちらの説はいまだに支持されており伊藤パンとかフジパンから出ている「頭脳パン」という凄い名前のパンを今でも見ますね。
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