自意識のない美人に出会った

街中ですれ違った人や、牛丼屋で隣り合わせた人、最近知り合った人から長い付き合いの友人まで、誰かを「見て」いる時にふっと感じる、小さな小さな違和感。今のその表情は一体……? そのしぐさにはどんな意味が……? ブログ「真顔日記」が人気の上田啓太さんによる、人間観察の記録です。
第1回目は「自意識のない美人」。自意識のない美人は、普通の美人と何がちがうのでしょうか。

先日、自意識のない美人と会った。非常に面白い体験だった。彼女は軽度の相貌失認らしく、人の顔をいまいち覚えられない。生活に支障のあるレベルではない。しかし人間の顔と自分の感情が、それほど結びつかないという。

造形としての美を感じる能力はあるし、経験的に、美しいとされる人間の顔も理解はできる。だから男の顔も造形的な美として評価することはできるんだが、「顔がかっこいい! 好き!」とはならない。同じく鏡を見て「自分の顔が好き」だとか「こんな顔は嫌だ」と感じることもない。他人の言動から、「どうも美人らしい」という形で認識している。

普通の美人と何がちがうか

比較対象として「普通の美人」を導入してみる。要するに「自意識のある美人」である。なお、美人というと女に限定される印象があるが、とくに男女の性別は関係がない。ここでは美しい男、美しい女をまとめて「美人」としたい。

普通の美人には「キメ顔」という概念がある。「キメる」というのは「特定の表情で固定する」ということである。もっとも美しい瞬間で固定する。普通の美人の顔は、気を張った状態だといえる。普通の美人は「ひとつの立派な答え」を顔に貼りつけている。

美を職業にしている人に何人か会ったことがあるが、あれはあれですごいものがある。ただスッと立つだけで、「私を見なさい」という強烈なメッセージになる。職業的な美を売りにする人間は、この方向に突き進めるかがポイントになるんだろう。「見よ、私は美しい」と確信すること。「こんにちは、美の最終解答です」という意識をもって歩くこと。これが人を強烈に引き付けるオーラを生み出す。しかし、それはあくまでも「解答」であって「謎」ではない。

彼女の場合、その顔は「謎」である。風に吹かれて稲穂が揺れるように、感情に吹かれて表情が変わる。いろいろな女優の顔が、瞬間的によぎっては消える。「いま、あの女優に似てた」と指摘する形になる。だが、次の瞬間にはもう似ていない。印象が確定されない。どれだけ見ていても「この人はこういう顔だ」という答えに辿りつけない。だから余計に見てしまう。

ある瞬間を切り取ると、平然とブスだったりするのも面白い。これは何に似ているかといえば、ネコの顔を見たときの印象に似ている。ネコもまた、平然とブスだったりするからである。そして、ネコのかわいさには、じつはこうした「平然とブスな瞬間があること」も含まれている。彼女は「私は写真映りがよくないらしい」と言っていた。そうだろうな、と思った。美しく写真に映るには、カメラを向けられた時に、しっかりと顔を作る能力が必要だからである。

自意識のない美人のモテかた

これまで、どんなふうにモテてきたのかを聞いた。これも面白かった。「お付き合いしたい」というモチベーションで男が寄ってくる。「付き合いたい」じゃなく「お付き合いしたい」で、語頭の「お」がポイントのようだ。同じく「よめさんにしたい」ではなく「およめさんにしたい」であって、これは実際に言われたことがあるらしい。「およめさん」と口にするとき、本当にイヤそうに発声したのが面白かった。どれだけさんざん言われてきたのか。

友達だと思っていた男も、あるとき唐突に告白してくる。「結局、顔しか見てなかったのかよ」と思う。しかしこれは「顔しか見ていない」というよりも、「顔の向こう側にあるものを想像で勝手に埋められてしまう」ということじゃないのか。ある意味、顔の造形だけを見るよりもタチが悪い気がするが。

「キメ顔」というのは内面を守る盾でもあるわけで、「私はこういう人間である」と表情で主張することで、「おまえの勝手な妄想を投げ込む余地はない」とアピールすることができる。しかし自意識が希薄な場合、そうした固定的な表情がない。空白に好きな色を塗ることができるように、それぞれの男が「自分の理想的な内面」を勝手に投げこめてしまう。だから異常にモテる。どんどん男は寄ってくる。「ぜんぜんうれしくない」と言ってましたけど。

しばらく話し込んで別れた。はじめて会った人間と別れたあとは、たいていひとつかふたつの表情が自分の頭のなかに登録されているものだが、彼女の場合、十以上の断片的な表情があり、それぞれの表情が互いに矛盾しているため、一人の人間の顔としてうまく登録されない。その結果、十人くらいの女と会ったような感覚が生まれていた。あれは不思議な体験だった。


次回「鼻息でコミュニケーションする日本の男たち」は5/8(火)更新予定。お楽しみに!

この連載について

新しい人間観察

上田啓太

街中ですれ違った人や、牛丼屋で隣り合わせた人、最近知り合った人から長い付き合いの友人まで、誰かを「見て」いる時にふっと感じる、小さな小さな違和感。今のその表情は一体……? そのしぐさにはどんな意味が……? ブログ「真顔日記」が人気の上...もっと読む

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コメント

sino_Drow 不思議な話だった 18日前 replyretweetfavorite

okawari16 “そして、ネコのかわいさには、じつはこうした「平然とブスな瞬間があること」も含まれている。”あー…… そういうことやったんや。理解したわ。そういえば、私の好きな人も写真移り悪いなぁ。 4ヶ月前 replyretweetfavorite

hare666666  めっちゃ面白かった。たしかに、美人で自意識がないのが一番モテるね…。 4ヶ月前 replyretweetfavorite

amaicola 意味なく情緒的。そしてわかる https://t.co/QB8eqBsxFb 4ヶ月前 replyretweetfavorite