リュックひとつでアフガニスタン
すべてのパッキングを終え、夕方の便に乗るために成田空港へ。空港でカメラマンの岩間さんと待ち合わせをし、いよいよ搭乗手続きへ。岩間さんは私より11歳年上。当時は39歳だった。大学時代にアジアや中近東、アフリカを放浪した後、カメラマンになる。東海道五十三次を撮影する旅をしたり、東京の離島の取材をしたりするなど、自然関係の写真、人物撮影が得意な人だ。
岩間さんはカメラの機材が大量に必要なため当然荷物も多いが、私は着替えとメモ帳、それに歯ブラシやデジカメくらいしか必要ないためリュックサック一つ。だが今回はなんと、ビジネスクラスで行くのである。というのも、それほど頻繁には飛ばないパキスタン行きの便を数週間前に予約したところ、もうエコノミーは満席になっており、ビジネスしか空いていなかったのだ。私の人生唯一のビジネスクラス体験はこの時だったのだ、ガハハハ。
私はけっこう海外旅行に行っているが、常に持ち物は普段から仕事をする時に使っているリュック一つである。こうすれば、時に荷物を預けるために並ばないで済むし、空港で預けた荷物を待つ必要もなくさっさと空港を出て市街地に行けるからだ。あと、よっぽどの秘境にでも行かない限り、大抵のものは揃っているので買えばなんとかなる。移動の時にいちいちスーツケースを運ぶのも面倒くさい。
さて、搭乗する飛行機はパキスタン航空。北京を経由し、パキスタンの首都・イスラマバードまで行くのである。イスラム系の航空会社のため、当然機内で酒は飲めない。私と岩間さんは空港内のレストランへ行き、生ビールを5杯ずつ飲んだ。
これから20日間、二人で一緒に取材をするパートナーとなる岩間さんは、色が黒く口髭を生やしており、一瞬国籍不明に見える人である。
「僕はパシュトゥン人に似てると言われますよ」
こう言うだけに、中東取材はかなり慣れているようだ。元々、今回の取材に関しては当初女子アナとスチュワーデスを取材するだけに女性のカメラマンを雇おうとしていた。だが、アフガニスタンとの貿易が長く前回も登場したU社長によると、「女性はダメだ」という。
理由はイスラム諸国では女性の地位が低く、しかも外国人女性であれば好奇の目にさらされてしまうため、常に彼女は不安を抱くはずだから、という。パキスタンならまだしも、アフガニスタンではその傾向はより強いはずだとも語った。
それは後によくわかった。イスラム圏の女性は髪の毛を隠すようにしているが、パキスタンとアフガニスタンでは明確な違いがあった。パキスタンの女性は「ヒジャーブ」という顔は見える布をかぶっているが、アフガニスタンでは「ブルカ」という、顔面をすっぽり覆い、さらには体全体をすっぽりと覆う服を着用しているのである。彼女たちは網目越しに外を見るのだ。
アフガニスタンで人々の家に行っても、成人女性は絶対に出てこない。男性と女児も含む子供だけが出てきて宴会(ノンアルコール)をするのである。この話は次回書く予定だ。
フリーで働くために、その能力よりも大事なこと
そんなわけなので、女性カメラマンのSさんに仕事を一旦依頼したものの、謝罪した上で断り、博報堂の井上さんに岩間さんを紹介してもらったということなのだ。さすがに、10年以上海外取材を繰り返してきた男はいかにも頼りがいがありそうだった。