Tinderで星野源似のまじめそうな男をLIKEしたらセフレになってた

左右にスワイプするだけの手軽なマッチングアプリTinderで、真面目そうな男性とマッチした派遣OLのノゾミ(28)。実は同棲2年の彼女がいるけれど、物足りなさから出会いを求めるアパレル勤めのリョウタ(31)。付き合いたい、結婚したい、結婚はまだ……、それぞれのちぐはぐな好意が交差します。
LINEで、SNSで、出会い系アプリで。いま恋のリアルは、スマホの向こう側に広がっています。かつてなく加速してからまりつづける男女の運命は、どこに向かうのでしょうか。

#ノゾミ #28歳 #派遣OL #この男の顔が死ぬほど好き

「ノゾミって、小動物みたいだよね」

「それほめてるの?」

「もちろん。ついちょっかい出したくなる」

 リョウタはベッドに寝転んだまま、下着をつける私をまじまじと見つめる。
 恥ずかしくて笑ってしまうと、リョウタは手を伸ばして、愛おしそうに私の頭を撫でつけた。

 リョウタと知り合ったのは、写真を左右にスワイプするだけで気軽に出会えるTinderだった。
 プロフィールの写真は、キレイめの白シャツに鼈甲の丸眼鏡をかけた、私の好みのど真ん中。3つ年上で、アパレル店員、血液型はB型だ。
 でもこういう真面目そうな人って意外とマッチしない。期待を込めて右スワイプでLIKEしたら、うまくマッチングして、思わずテンションがあがってしまった。

 昨日は2回目のデートで、池袋で終電がなくなるまで飲んだ後、とうとう私のアパートにきた。自分の部屋にリョウタがいるのは不思議な感じで、彼のまわりだけが洗練されて、いつもと違って見えた。

「その眼鏡いいよね。そういうの選べるセンスが好き」

「ありがとう。俺、気に入ったモノしか使わない主義だから、ほめられるとうれしい」

 リョウタはそう言って私を抱き寄せると、まるで自分のお気に入りみたいにキスをした。

 リョウタが朝方帰った後、彼が働くアパレルショップのInstagramから、個人のアカウントを探し当てた。
 そこには公園やカフェで撮ったオシャレな写真に混ざって、自宅もアップされていた。家具や食器にもこだわってるんだなと、何気なく気になった食卓の写真をスワイプしたら、テーブルの反対側に女性が写りこんでいるのを見つけた。
 他にも探してみると、彼女らしき女の写真は何枚も紛れこんでいた。

 その人は黒髪のショートカットで、背は低く、リョウタと同じ丸眼鏡をかけていた。
 いかにも穏やかで、いい人そう。
 だけど、決してかわいいとは言えない。というか、絶対私のほうがイケてる。

 モヤモヤした気持ちを充満させながら、そういえば昨日の夜、どれだけ待ってもリョウタから付き合おうって言われなかった事実を、今になって強く意識してしまうのだった。

#リョウタ #31歳 #アパレル #彼女のことは好きだけど欲情はしない

「おかえり。朝まで飲んでたの?」

「いや、友達が具合悪くなっちゃってさ。家まで送ってきた」

 玄関で靴を脱いでいると、カナコがリビングから顔を出した。
 紺色のシンプルなワンピースは彼女が働くブランドの新作で、デザインはすごくいいんだけど、膨みすぎたシルエットからは色気の欠片も感じられない。

「それは大変だったね。大丈夫だったの?」

「ああ。水飲ませたから平気だよ」

「……よかった。じゃあ、私、もう行くからゆっくり寝なね」

 カナコは慌ただしく身支度をして家を出た。
 食卓にはラップをかけた朝食が用意されていて、俺はそれを見ないふりして浴室に向かう。カナコが出て行くと、家の中は静かになった。

 同棲してから、丸2年が経つ。
 同じ会社の別ブランドで働く3つ年上のカナコとは、合同の飲み会で知り合って、すぐに付き合い始めた。半年経たないうちに同棲を始めて、今ではよくも悪くも、すっかり家族みたいだった。

 毎日働きながら家事までこなす彼女のことを尊敬しているし、決して感情を荒立てないところが、好きだった。
 けれど、ここしばらくセックスの回数はめっきり減った。
 時々手をつないだり、抱きしめたりしても、まるで自分の肌に触れているみたいになにも感じない。

「今度、いつ会えるかな?」

 ノゾミからLINEが届いていた。
 顔はかわいいし、適度にノリがよくて話しやすい。

 マッチングアプリで知り合う女の子は、お互い出会い目的だから、浮気しても罪悪感が少ない。

 あとで返事しようと思って、未読にしたままシャワーを浴びた。

#ノゾミ #彼女のことがバカみたい #リョウタは私のほうが合ってるのに

 仕事中も暇さえあれば、リョウタのInstagramをのぞくのが癖になってしまった。

 リョウタのフォロワーから彼女と似たアイコンを探して、昨日ついにアカウントを突き止めた。
 名前は「kanako0517」と書いてある。
 メインは料理の写真で、構図はリョウタがアップした写真とほとんど同じ、真上から2人分の料理を撮ったものだった。手のこんだキーマカレーからサンドイッチまで、写真は毎日更新されていて、リョウタが私の家から朝帰りした日も変わらずアップされていた。

「バカみたい」

 思わず口に出して、慌ててまわりを見回した。
 コメント欄には、彼女の友達から「おいしそう」とか「今度レシピ教えて!」とか書かれていて、それが余計に惨めさを誘った。
 写真の中では、どこから見ても同棲カップルの幸せな日常風景に見える。
 なのに、彼氏が若い女と浮気中なんて。惨めだ。いったい私と彼女、どっちが惨めなんだろう。

 スマホが震えて、LINEが届く。

「今夜、空いてる?」

 リョウタからのLINEに、私は即答でオーケーした。


「そういえば、リョウタって彼女いるの?」

 リョウタはコンビニで買ってきたお酒を袋から出しながら、首をかしげた。

「うーん……いるような、いないような」

「なにそれ」

「ご想像にお任せします」

「まさか結婚してるとか?」

「してないよ。どうしたの急に」

 私がリョウタのInstagramを見せると、すこし黙った後、リョウタは悪びれもせず答えた。

「一緒に住んでるんだ。でも、ノゾミが思うような感じじゃないよ」

 こんなにあっさり認めると思わなかったから、私は「ふうん」とだけ返事して、極力驚かないように気をつけた。

「もう1年近くしてないし」

「え、そうなの?」

「彼女のことは好きだけど、なんていうか、そういう気持ちにならないんだよね」

 好きだけど、とさらっと言われたことに傷ついた。男ってみんなこうなんだろうか。リョウタは真面目な人だと思っていたのに。真面目そうなのにチャラいって最悪じゃん。
 でも、リョウタの申し訳なさそうな顔を見ていると、私を本当は好きでいてくれてるんじゃないかと期待してしまう。それに彼女にはできなくて、私にできていることが見つけられたことは大きかった。

 私たちはそのまま何事もなかったように、テレビの映画のDVDを並んで見た。
 リョウタはお酒を飲みながら、毎日彼女の話を聞くのが面倒くさいとか、家にいても気を遣って疲れるとか、愚痴をこぼした。

 こうしてると、まるで付き合ってるみたいで、彼女のInstagramのほうが間違ってるんじゃないかとすら思えてくる。
 だから、待っていたら、いつか彼女とは別れてくれるのかもしれない。
 そう思って、私はわざとかわいい子ぶってリョウタを抱きしめる。
 リョウタもそれに応えるように微笑んで、私の背中に腕を回し、私たちはいつも通りお互いの服を脱がせ合った。

#リョウタ #カナコを失うことはできない #このまま観念して結婚するのか

 ガパオライスにトムヤムスープ、エビの生春巻き。
 仕事から帰ると、食卓に料理の皿が隙間なく並べられていた。

 カナコは大事な話をしたいとき、必ず手のこんだ料理をつくった。でも、どうしてタイ料理なのかわからなくて考えたら、この前テレビを見てるときに俺が「食べたい」って言ったことを思い出した。

「今日はすごいな。どうかしたの?」

「ううん。最近仕事遅いみたいだし、リョウタの食べたいものつくろうと思って」

 食卓につくと、どちらもInstagramの写真を撮ってから食べ始める。
 料理はどれも文句なしにおいしかったけど、こうなると、なにを話したらいいのかわからない。テレビをつけるのもあからさまかなと思って話題を探すうちに、カナコの誕生日が再来週に近づいていることを思い出した。

「そういえば、誕生日、なにかほしいものある?」

「うん、あるよ。でもほしいモノっていうか……」

 カナコは箸を置いて、言い淀んだ。

「私ね、子供がほしいの」

 いよいよこの話題になったかと、慌てて春巻きを飲みこんだ。
 俺はなるべく深刻な空気にならないよう、わざと笑って返事した。

「え、どうしたいきなり」

「いきなりじゃないよ。同棲するときから結婚しようって話してたでしょ」

 カナコは今にも泣き出しそうな目で見上げた。

「私、もう34歳になるんだよ。これから一緒にいるなら考えて」

 はっきり言われて、俺はなにも言えなくなった。

 カナコのことは今だって好きだ。二人の生活は充実しているし、別れたくない。
 だけど、それが結婚と言われてしまうと、急に気が重くなる。彼女から目を逸らして、テーブルに並べられた料理を眺めて頷いた。

「わかった。ちゃんと考えるから」

 その夜はベッドに入るなり、カナコからひさしぶりに抱きつかれた。
 正直、すこしも興奮しなかった。
 俺は目をつぶってできるだけ彼女の顔を見ないようにしながら、ノゾミのことを考えた。それでもカナコがどうしてもって言うから、迷った末に避妊はしなかった。

#ノゾミ #いつか本命になれると思ったのに #セカンドはずっとセカンドのまま

「ご報告。
 この度、晴れて結婚することになりました」

 お弁当を食べながらカナコのInstagramを開いて、思わず手を止めた。
 写真には仲睦まじいツーショットがアップされ、コメントにリョウタのアカウントがしっかりリンクされていた。
 写真の中で彼女は、今までの穏やかさは微塵も出さず、勝ち誇ったように微笑んでいた。
 それは間違いなく、私に向けられているものだった。

 リョウタは、本当にプロポーズしたんだろうか。
 だって、いつも彼女の愚痴しか言わなかったのに。

 そこまで考えたところで、ようやく間違いに気がついた。
 違う。そうじゃない。
 きっと彼女と別れて私と付き合う選択肢なんて、最初からなかったんだ。

 スマホが震えて、リョウタから「今日も、夜いっていい?」とLINEが届いた。私は「もう会わない」と返事して、彼をブロックした。


 20時を過ぎた頃、アパートのインターホンが鳴った。
 ドアスコープの覗いたらリョウタだったから無視していたら、今度はスマホに着信が鳴った。

「今、部屋の前にいるんだけど」

「帰ってよ」

「どうしたの? なんで急に?」

「リョウタ、結婚するんでしょ?」

 私が問いつめると、リョウタは言葉を詰まらせた。

「私、彼女のインスタ見たんだよね」

「いや、そうなったけど……。俺たちは俺たちだろ」

 は? なに言ってんの?
 さすがに頭にきて、玄関に出しっぱなしのヒールを投げつけた。

 まだ状況を理解しきれないリョウタは、それでもドアをノックする。

「なあ。ちゃんと話そうよ。ノゾミを好きなことは変わらないんだからさ」

 ドアスコープを覗くと、汗だくになってドアを叩くリョウタがいた。

 どうして今になっても、私を好きだなんて言えるんだろう。
 この人はだれを傷つけても平気なんだ。
 結局、自分さえよければ。
 あんなに好きだったはずなのに、彼の言葉はすこしも響いてこなかった。

 玄関の前にへたりこんで、私はドアスコープを見上げる。
 リョウタが諦めて帰るまでの間、名残惜しくそれを眺め続けた。


次回「ずっとLINEつなげてたいのに、もう会えないならブロックしかないじゃん」は4/24更新予定

この連載について

初回を読む
#ワン・モア・ライク! #ワン・モア・チャンス? #マッチングアプリで恋をして

大塚美和

LINEで、SNSで、出会い系アプリで。いま恋のリアルは、スマホの向こう側に広がっています。かつてなく加速してからまりつづける男女の運命は、どこに向かうのでしょうか。

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zukamiho まじめそう、って見た目も ニコニコ優しい、って入り込みやすさも 私達しあわせです、アピールも そうしないといけない理由があるわけさ。 続編楽しみ📍 https://t.co/sWlX10lSwU 3日前 replyretweetfavorite

taniryu 僕の中で(ゲスさが)話題のマッチングアプリ小説、Tinderにフィールドが移った…ターゲットはPairsだけではなかった…(星野源似って真面目そうなのか…?) https://t.co/hIWELgdoUU 3日前 replyretweetfavorite

miwa_otsuka 連載第3話「 3日前 replyretweetfavorite