この頃、父のことをよく考える。
五十四歳で逝った父のことを。
父は優しい人だった。働き者だった。
どうしてあんなに温厚な人だったのか。
サービス精神が旺盛で、いつもみんな笑わせようとしていた。
僕は一文がとても愛おしい。そして思う。
父も僕に、同じような気持ちを抱いてくれていたのかと。
父に抱きしめられた記憶はない。
かといって父が冷たかったとは思わない。
父の時代の家族像と自分の時代のそれとは大きく違う。
日曜日は決まって近所のサウナとパチンコ屋に連れて行ってくれた。
子供の愛し方がわからなかったが、父なりの愛情表現だったのだろうと思う。
父は自分の父に、つまり僕の祖父に殴られて育った。
父はよく言っていた。
「だから自分は絶対に子供を叩かない」
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