■技術4 「大局」を読むには「知識」が不可欠
「どうしてそんな質問をするんだ?」
特派員として僕がワシントンに赴任したときのことです。三年くらい日本の政治の報道現場にいて、いきなりワシントンですから、国際政治のバックグラウンドなんて全くありません。ですから、ホワイトハウスに取材に行っても、語学力が足りないのはもちろんなんですが、話題についていけない。日本のことが話題になることはほとんどなく、まずアメリカの内政、そしてヨーロッパや中東の話がほとんどです。南米の話なんてなると、何を話しているのかちんぷんかんぷんです。
日米関係について政府関係者や外交官にインタビューをしましたが、こちらが質問すると、「どうしてそんな質問をするんだ?」 とあきれたような顔をされる。 僕の質問が小さすぎるのです。
僕の中には日米関係という知識と情報しかないので、その観点でしか質問ができない。けれど、アメリカにとって日本は視野の一部でしかない。全体のバランスを見たうえで、日本に対してはこうした姿勢だということになりますが、その頃の僕には全体が見えていませんでした。
仕方がないので、「我々は日本のメディアであり、この質問は日本の関心事なんです。だから、申し訳ありませんけど、お答えください」 とお願いしました。それで、理解のある人は答えてくれましたが、「そんな小さい問題に対して答えるエネルギーはない」と答えてくれない人もいました。
国務副長官も務めた知日派のアーミテージさんなどは、私の「狭い」質問にも丁寧につきあってくれましたが、日本では少しは知られた「フジテレビ」という名前もワシントンでは全くの無名、アメリカでの取材は自らの実力のなさを痛感する日々でした。
自分の目で見、耳で聞いたことからロジックを組み立てる
僕のワシントン生活は「息も絶え絶え」の状況でしたが、そんな僕の「手の届かない、遠い目標」が産経新聞の古森義久さんでした。古森さんはもともと毎日新聞の記者で、一九七二年、ベトナム戦争終結時にサイゴン特派員となり、『ベトナム報道1300日』を著しています。その後、カーネギー財団国際平和研究所上級研究員になって、八七年に産経新聞に移籍、長くワシントンでの取材を続けています。
国際報道の現場を見続けてきた方だけに、視野が広い。それだけでなく、自分で取材をするのが基本で、自分の目で見、耳で聞いたことをもとにロジックを組み立てて記事を書きます。取材はチームプレーでもあります。古森さんクラスともなると、部下の取材メモをもとに記事や本を書く人もいますが、僕の知る限り古森さんはそれはしませんでした。
フジテレビと産経新聞のワシントン支局は仕事部屋は別ですが、共有スペースを持っていました。朝出社した時や昼時など、共有スペースにはお菓子が置いてあり、僕はそれを目当てによくそこに居座っていました。原稿の合間の息抜きに古森さんもたまに来ましたが、私生活から取材ノウハウに至るまで、様々なアドバイスをいただきました。
新聞記者の仕事だけでも忙しいのに、本もたくさん出されている。その全てが自分の取材をベースにして書かれている。尊敬するジャーナリストの一人であり、「プライムニュース」にも何度もお迎えしています。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。