柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第5回

大手ゲーム会社グリムギルドから契約破棄され、プログラマーの白野高義はただ途方に暮れていた。そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、見知らぬ強面の男・灰江田直樹。彼はグリムギルドを辞め、レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」を興していた。白野は灰江田のもとで働き始める。出会いから一年三か月が過ぎ、会社の経営は火の車に陥っていた――。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。

 金曜日の二十二時。都内の駅近の居酒屋では、飲み会が始まり一時間が経過していた。魚が美味い地下の店。参加している面子(メンツ)は、いずれもゲーム業界の関係者だ。大手企業の営業担当。老舗会社の部長。下請け会社の社長。出版社のライツ部門の人間もいる。

 人数は十人ほど。四十代、五十代が多い。全員、いま流行りのソーシャルゲームではなく、家庭用ゲーム機やパソコン向けのゲームを手掛けている。彼らが談笑しているテーブルの末席に灰江田は座っていた。
「そういえば灰江田くんの会社はどんな感じなの」  
 六十歳に手が届く、昔なじみの老舗会社の部長が声をかけてきた。
「いやあ、なかなかでしてね。去年社員を入れたせいで、固定費がかかるようになりまして。社員がいれば、いままでのように仕事の切れ目は我慢するというわけにもいかないですから。なにかいい案件を回してくださいよ」  
 殺し屋かヤクザの用心棒といった外見とは裏腹に、灰江田は人懐っこい口調で愛嬌を振りまく。
「灰江田くんの頼みだから、そうしたいのはやまやまなんだけどね。でも、そんなにぽんぽんとあるわけじゃないからなあ、レトロゲームのお仕事」
「そうそう。灰江田さんのところは妙なこだわりがあるからね」  
 大手企業のベテラン営業が話に入ってきた。  
 レトロゲームの楽しさを現代に蘇らせる──灰江田の妙なこだわりは、業界の人間に知れ渡っている。ジャンルをしぼって一点特化している分、その手の仕事の際には必ず声がかかる。しかし、それ以外の依頼を断るので、数も売り上げも限られてしまう。また、自社で権利を持たない下請けだから単価は低く、ヒットが出ても大きく儲かることはない。注文が途切れなければ食い繋げるが、そうでないときは、じり貧になる。だから仕事を取るために、業界の飲み会に顔を出している。  
 しかし悲しいかな。窮状は人を遠ざける。依頼して完成までに潰れられては困る。そうした各人の魂胆が透けて見えるようだった。苦しいときこそ助け合いだろう。そう思うのだが、灰江田の妙なこだわりのせいで、馴染みの人々も出せる仕事が少ない。会社を作って三年半。灰江田はいま最大のピンチを迎えていた。  
 携帯電話の呼び出し音が聞こえた。灰江田のものではない。幹事をしている老舗会社の部長がスマートフォンを出す。
「えっ、なに。いま、駅を出たところなの。じゃあ、すぐ着くね。出入り自由の飲み会だから、遅れても全然構わないよ」  
 人が増えるのか。誰が来るんだと思いながら、灰江田は目の前の人々に熱心に営業をかける。飲み会の参加費もただではない。成果を上げて帰らなければ無駄金になる。  
 扉の開く音が聞こえた。ちらりと視線を向けて顔が強張る。天敵が現れた。向こうも灰江田を認めたらしく、見るからに不快な色を浮かべてやって来た。
「なんで、ハイエナ野郎がここにいるんだよ」
「ふんっ、ヘビ野郎に言われたくはねえな」  
 灰江田は現れた男に罵声を返す。二人の視線が、互いのあいだで火花を散らした。  
 ヘビのような顔。冷酷そうな口元。髪はオールバックで、痩せた体は武道の達人といった風情だ。実際、喧嘩は強い。灰江田と殴り合って、互角に渡り合える腕っ節だ。  
 橘鋭介。大手ゲーム会社グリムギルドのプロデューサー。同じ年に入社した元ライバル。犬猿の仲の男が灰江田の席の横に立ち、見下ろしてきた。

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新潮社
2018-03-16

この連載について

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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ruten 小説『レトロゲームファクトリー』のcakes連載第5回が、先週の金曜日に公開されました。ゲーム好きの人も小説好きの人も是非。 https://t.co/eJHRlCjMHr #cakes #小説 #ゲーム #レトロゲーム https://t.co/6i2uSHXUId 9ヶ月前 replyretweetfavorite