あれよ星屑』が描いた、女も混ざりたい男の絆

男と男の恋愛を描く一大ジャンル「BL」。本連載は、妻であり腐女子でもある文筆家の岡田育さんがおくる、夫に読ませたいBLマンガガイドです。今回は、岡田さん自身のホモソーシャルに対する感情を丁寧に分析していくところからはじまり、2月に完結した山田参助著『あれよ星屑』で描かれる女体と男の絆について考察していきます。

男の「秘密基地」で門前払いされて

「ホモソーシャル」という言葉は、性愛を含まない同性間の強い結びつきや関係性を指す。男同士のホモソーシャルな連帯は、ミソジニー(女性嫌悪)とホモフォビア(同性愛嫌悪)をその特徴とする。女性を閉め出し、オカマを嗤うことで絆を深める、男による男だけのコミュニティが、古くから人間社会の中核を占有してきた。

 詳しい分析は社会学者に譲るとして、この言葉で私はいつも「裏山の秘密基地」を思い浮かべる。ガキ大将を頂点とした「男らしさ」を旗印に、「女は入れてやんねーよ!」を合言葉に、仮想敵との大いなる聖戦をシミュレートしながら、秘密の共有によってキャッキャウフフする男の子たちの姿だ。

 テレビ番組の戦隊ヒーロー物には女性戦闘員も登場するのに、私はなぜか「ママゴト遊びでもやってろ」と拒絶される。それは幼い女児の前に初めて立ちはだかった、自分一人の力では絶対に動かせない「壁」だった。この理不尽は子供の遊びにとどまらず、大人社会でも平然と構造に組み込まれている。そう思い知るたびに私は深い憤りをおぼえた。女子校へ進学して幼馴染の男子たちとは疎遠になったが、何かに抗うように外股で歩き、男言葉を話し、少年漫画に熱中してエロ同人誌を読み漁り、気づけば立派な「腐女子」へと成長していった。

 可笑しな話だと思う。その概念を知るずっと以前から、私は私を排除するホモソーシャルを憎んでいた。しかし私はその憎っくき「壁」の向こうに、同時に恋焦がれてもいたのだ。私が終生見ることも体験することも叶わない「男の絆」とは、きっと素晴らしく価値あるものなのだろう。彼らが私を遠ざけ、絶対に分け前を渡さないのは、それが妙なる甘露だからに違いない。でなければ理屈が合わない。「ママゴトしてろ」と追い払われた男社会の門前で、私は私のゴッコ遊びを始める。

 「俺たちの絆は、至高にして究極だな」「ああ、下等な女どもの立ち入る隙なんかない」「この感情は、愚劣な異性愛なんかよりずっと尊いものだ」「俺たちの心の扉は1番目から99番目まで開かれている」「だけど俺たちは、あの汚らわしいホモ野郎どもとも違う」……私という腐女子の脳内で進行するその桃源郷の妄想は、最後に必ず、水戸黄門の印籠100番目の禁断の扉の開放、すなわち「セックス」で閉じられていた。

BL妄想に宿る、暴力的快感

 異性愛者であるはずの男同士のホモソーシャルを、恋愛感情や性愛を加味したホモセクシュアルとして読み換えてしまう。それはただのパロディである。だって、エッチなほうが笑えて面白いもんね。しかし一方で、そこには仄暗い別の手応えもある。男たちが精神性で語るホモソーシャルに、勝手に肉欲を追加トッピングし、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて女の手でぶち壊すことに、「壁」の前で悔し泣きした女児の無念を慰める暴力的快感があることを、私は否定できない。

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#夫に読ませたいBL 〜やおいの教科書を考える〜

岡田育

「ボーイズラブ」略して「BL」。それは、男と男の恋愛を描く一大ジャンル。cakesで「ハジの多い腐女子会」の司会を務める文筆家の岡田育さんは、BLを愛する腐女子であり、また夫を愛する一人の妻でもあります。しかし、岡田さんの夫はBL作...もっと読む

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コメント

marekingu #スマートニュース 4ヶ月前 replyretweetfavorite

nishino_fumi “男たちが精神性で語るホモソーシャルに、勝手に肉欲を追加トッピングし、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて女の手でぶち壊すことに、(省略)女児の無念を慰める暴力的快感がある” 4ヶ月前 replyretweetfavorite

okadaic 『 #夫に読ませたいBL 』更新されました。ちょっと長いですが「ホモソーシャルの壁と門前の私」もとい山田参助 4ヶ月前 replyretweetfavorite