池崎がガラになく真面目にユウカに「愛」を語ったあの夜から、ユウカのモヤっとした得体の知れない感情は鎮静化していった。
心に吹きすさんでいた隙間風はやみ、この春の穏やかな陽だまりのようにユウカの心にも温もりが戻り始めていた。
未だに就職もせず専業主婦然としているユウカはとにかく時間だけはたっぷりあるのだが、とりわけ趣味があるというわけでもない。
ダラダラとワイドショーや再放送のドラマを見ているのも飽きてきたユウカは、散歩がてら近くの公園へ歩いて向かった。すると、
「お久しぶりです。百鳥ユウカさん」
まったく知人に会う気がしない横浜で、フルネームを呼ばれたことに驚き、ユウカは振り返った。
「えっ!?」
そこには予想もしない人物が立っていた。
「ユウカさんとこんな場所で再会することになるとは、思ってもみませんでしたよ」
それはこっちのセリフだ、とユウカは瞬時に思ったが口にはしなかった。
だって、この男、神戸で居候をしていたときにお世話になっていた竜平さんに紹介されて出会った、自称「結婚請負人」の幕田揚(まくたあきら)。
この男には、婚活パーティーに何度か連れ出され、さんざん嫌な思いをさせられた記憶しかない。
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