──前回は、アラブに共通した問題、イスラエルとパレスチナの問題に触れました。「アラブの春」はイスラエル問題にはまったくプラスにならず、むしろマイナスが起きていると。そこでうかがいたいのですが、それはどんな面においてですか。
重信 シリアでの内戦が広がるにつれ、近隣諸国に避難していく人々が増えていきました。そのなかにはシリア人だけでなく、在シリアのパレスチナ難民の人たちもいるのです。ダマス市内での戦場の一つが、シリアのいちばん大きなパレスチナ難民キャンプ「ヤルムーク・キャンプ」近く。15万人と言われる、そこの住んでいたパレスチナ難民の85%が戦争に巻き込まれないように、ヨルダンやレバノンの難民キャンプに逃れているのです。
そもそも、援助を受けながら大変な生活をしている難民が住んでいるところに、さらにシリアからの難民を受け入れざるをえない状態です。もともと人口密度が高いところに、さらに人が増えるという厳しい事態になっています。また、トルコや北レバノンが反アサドにまわっているので、親アサド派のシリア人たちも行き場がなくてレバノンやヨルダンにあるパレスチナ難民キャンプにやってくる。
──そういえば、「アラブの春」の報道でパレスチナのことはほとんど触れられていませんでしたよね。パレスチナ自治区にも何か影響はあったんですか。
重信 ガザ地区からエジプトに入る「ラファファ」という国境地帯があります。ここで昨年の8月にイスラム原理主義者とエジプト軍との小競り合いがあり、エジプト軍人の16人が犠牲者となった。これでエジプトの国内問題が噴出しました。
というのも、「アラブの春」の後、エジプトはムスリム同胞団系の政党が政権を取りましたが、特殊な国内事情によって、政府とは別個に軍が独立した強い権力をまだ持っているのです。それまでのエジプト政権は、ほとんど軍事政権だったので権力が統合されていました。それが今回の「革命」で権力が分裂したのです。その政府と軍との権力争いの結果として小さな武力衝突が故郷地ラファハで数回起こっています。
報道では「ジハーディスト」と呼ばれるイスラム原理主義の武力勢力にパレスチナ人が40人ほど加わって、軍との衝突があったと発表されました。ムスリム同胞団系のハマスも加わっていたと一時報じられましたが、ハマス側は否定しています。
その結果、ハマスの関与を排除するという名目で、国境が封鎖されてしまったり、開いていても通過が厳しくなってしまった。いちばん困っているのは何の関係もない、パレスチナの一般の人々です。
──では、今後の展望は暗いと。
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