ロバート秋山の「クリエイターズ・ファイル」を支える編集者の手腕

ロバート秋山さんが架空のクリエイターに扮し、それぞれの仕事や生き方について語る、「honto+」の人気連載「クリエイターズ・ファイル」。独自路線を貫き、テレビ番組のお笑いとはひと味違ったこの企画はどのように生まれ、そしてどのようにつくられているのでしょうか?
美術、写真、文学、建築などのテーマについて作家活動を続けるアートコンシェルジュの山内宏泰さんが、その「美しさ」を探ります。前編はこちらからどうぞ。

プロの編集者が、お笑いのプロの「暴れまわる場」を用意

 ロバート秋山さんとの仕事によって、改めて紙媒体の可能性に目を開かれた面も多々あった—。

 かつて講談社で漫画誌『週刊少年マガジン』や文芸誌『群像』の編集部に在籍した三枝さんは、そう話す。

「当初、僕らのほうが『これからの時代、もう紙の媒体でやれることなんて限られているよね』と、勝手にあきらめていたところがある。『honto+』も紙媒体のほかに電子書籍でも展開し、ハイブリッドメディアを標榜しています。

 でも、秋山さんにとっては紙メディア自体が新鮮で、誌面でこそおもしろいことができるんじゃないかと取り組んでいた。紙だから新しいことができるという考えに、目から鱗が落ちる思いでした」

 秋山さんお得意のなりきり芸が誌面化され、フリーペーパーの中に収まると、それはずいぶん新鮮に映った。


FPO法人「ガーベラ」代表:清瀬まさ子/©️クリエイターズ・ファイル


ストリート・カルチャー・スーパーバイザー:鷲尾ケイゴ/©️クリエイターズ・ファイル


声優:二木陽次/©️クリエイターズ・ファイル

 「『honto+』には阿部和重さん、伊坂幸太郎さん、川上未映子さん、伊藤比呂美さんといった文学者が連載を持ち、インタビュー記事にも浅田次郎さんや安藤忠雄さん、菊地信義さんら各界の第一人者に登場していただいています。フリーペーパなのに質を高くキープすることに誇りを持ちつくっているつもりです。

 そんな大まじめなページが並ぶなか、秋山さんの虚構のページが入るといっそうおもしろみが増します。この媒体で連載している意味は大きいと思います」

 担当する編集者が、長らく紙を手がけてきた編集者だからこそ成立しているところはあるのだ。三枝さんは講談社を出て最初はコルク、次いでCTBという会社を立ち上げ、編集という仕事の新しいかたちを模索してきた。

「講談社を出てすぐのころは、コンテンツを現代の消費形態にどう合わせていくかをよく考えていました。たとえばスマホで漫画や小説をどう読んでもらうか、とか。

 でも秋山さんとの仕事などを通じて痛感したのは、ひとつの誌面の質をどう高めてつくっていくかが大事だということ。時代に合わせたマーケティング云々というよりも、結局は古典的な編集的な知識やノウハウが今の時代にも何より有効だったんです。

 その点、秋山さんのこだわりようはすごい。最初から今に至るまで、毎回著者校正が異様に長いんですよ。取材を終えてこちらでいったん編集した誌面を、秋山さんに送ります。後日、忙しいスケジュールを縫って時間を確保し、直接会って、みっちり直しの作業をします。写真も文章も誌面構成も見直していくので、数時間はかかります。

 この直しの作業の密度は、僕が文芸編集者として小説家や評論家とさせていただいていた打ち合わせと同等か、それ以上のものがあります。漫画や文芸といった古くからある分野で編集者をしてきた経験が、ここで活きていると思います。こちらもプロの編集者として、『こういう表現がありますよ』『本物の記事ならこういう内容を盛り込みますね』といった提案ができますしね。

 もちろん、動画をYouTubeにアップしたり、広告タイアップをしたり、パルコで展示会をしたりコラボカフェをしたり、グッズ展開をしたり、といまの時代ならではの多角的な展開をしていますが、すべての大元は『honto +』の誌面です。また、その誌面を作り上げていく技術が、ビジネスの展開にもいきていると思います」

 プロの編集者が、お笑いのプロフェッショナルたる秋山さんに、最も手足を伸ばして暴れ回ることのできる場を完璧に整えて提供した。それで大ヒットコンテンツの「クリエイターズ・ファイル」が生まれたのだ。

 秋山さんはこれによって表現の幅をぐっと広げたし、三枝さんも編集者として新機軸を見出せた。

「毎回まったく異なるタイプのクリエイターを『取材』するので、編集者としてはいいエクササイズになります。必要なセンスや知識をつど仕入れないといけないので。

 この回は、ともに仕事をしている阿部和重さんの純文学的な先鋭的なものの見方が役立ちそうだ。違う回では伊坂幸太郎さんのエンターテインメントをつくる技術が活きそうだ。こっちでは蓮實重彦さんの深い知見と洞察力を援用しようなどと、こちらも持てる人脈や能力を総動員して臨んでいますね」

才能をサポートする編集者という仕事はエキサイティング

 新しい横文字職業が続々と出てきて幅を利かせている昨今でも、昔ながらの編集者という立場でやれることは、案外多そうな気配である。

「出版社で15年ほど編集者として仕事をして、独立してからも引き続き同じことをしているわけですが、やっぱり奥深いものだなと実感します。すごい才能と巡り会って、全力でサポートしていける仕事はエキサイティングだし、飽きるということも考えられないです。才能に飽きる、人に飽きるなんてことはないですから。

 編集者は人の才能をサポートし高めていく役割なので、自分自身には広く浅くものが溜まっていくだけですし、ひとりで何ができるというわけでもない。まあだからこそ、あれもこれもと、おもしろいと思うことをどんどん実現していけるのですが。

 阿部和重さんや伊坂幸太郎さんと小説をつくり上げ、蓮實重彦さんの映画理論をまとめるサポートをし、ミステリーやエッセイを編集しながら、秋山さんと『クリエイターズ・ファイル』で新しい笑いのかたちを生み出す。おもしろい毎日だなと自分でも思います。

 表現する人たちに最大限のリスペクトを示しながら、これからもともに歩けたらうれしい。幸い『クリエイターズ・ファイル』はまだまだネタも意欲も尽きず、秋山さん自身は『1000人くらいはキャラクターを演じたい』と言っているくらいですからね」


三枝亮介(さえぐさ・りょうすけ)

編集者。株式会社CTB代表取締役。2001年株式会社講談社入社、「週刊少年マガジン」編集部、文芸図書第一出版部、「群像」編集部に在籍。2012年株式会社コルクを設立。2017年、コルクを退社し、株式会社CTBを設立。編集者として担当した作品は、『ゴッドハンド輝』(山本航暉)、『金田一少年の事件簿』(天樹征丸、さとうふみや)、『あひるの空』(日向武史)、『ピストルズ』(阿部和重)、『PK』(伊坂幸太郎)、『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重・伊坂幸太郎共著)、『映画時評』(蓮實重彦)など。


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この連載について

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美をさがすのが人生で唯一の目的である

山内宏泰

美術、写真、文学、建築などのテーマについて作家活動を続けるアートコンシェルジュの山内宏泰さん。テーマの根幹にあるのは、「美しさ」でした。美しさとは果たしていかなるものなのでしょうか。毎回、各界でこれぞという人に話を訊きながら、「美しさ...もっと読む

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marekingu #スマートニュース 2日前 replyretweetfavorite

rurika109 「すごい才能と巡り会って、全力でサポートしていける仕事はエキサイティングだし、飽きるということも考えられないです。才能に飽きる、人に飽きるなんてことはないですから」 https://t.co/HC3lj8YPV0 3日前 replyretweetfavorite

k_sato_oo 「講談社を出てすぐのころは、コンテンツを現代の消費形態にどう合わせていくかをよく考えていました。でも、時代に合わせたマーケティング云々というよりも、結局は古典的な編集的な知識やノウハウが今の時代にも何より有効だったんです」 https://t.co/gcSGZEn4p7 3日前 replyretweetfavorite