哲学と冒険

編み物はすばらしい

行動、思考、遭遇、あらゆる僕自身にまつわる、その日常のこと、毎日接する物事、それがすべて僕の思想であり、それが僕の哲学であり、それは言語よりも前にある。先にある。先にあるものを僕は毎日生きている。息を吸いながら、それらを見ている。食べている。食べながら、何かをつくろうとしているわけではない。それによって何かをつくりたいわけではない。僕はただそうやって生きたいだけだ。僕は毎日、原稿を書き、絵を描き、歌をうたい、人々と出会い、本をつまみ食いし、画集をつまみぐいする。だいたい毎朝8時更新。お休みすることもあり。


2018年4月4日

 朝起きて、原稿。新作小説「最後の人間」を10枚。これで140枚目。今年は800枚の新作小説「建設現場」を仕上げて、三月中旬からさらにこの「最後の人間」を書き続けている。躁鬱の波も穏やかだ。病院に行かずに、習慣をやることで乗り越えるつもり。薬もまた習慣である。それならば、もっといい習慣があるはずで、僕の躁鬱はこの習慣によってうまく克服することができるのではないかと、やりはじめてみたが効果覿面である。今のところ、早寝早起き、朝起きてまずは原稿を10枚、その後、絵を4枚、そして、編み物をしつつ、歌が浮かんだら歌をつくる、という創造習慣をつくっている。これがかなり調子いい。原稿書き終わり、編み物へ。セーター第2号、毛糸一巻き分が終わりそうだ。スピードも上がっている。悩んでいる暇があったらつくる。ニール・ヤングもそうだった。「つくれつくれ、次をつくれ、どんどん駄作をつくれ、駄作をつくってもへこまず、次のをつくれ、いつかいいものつくれるようになる」。おまじないみたいにニール・ヤングの言葉をつぶやいている。ディランもピカソもみんなそう。次をつくる。それしか次はない。当たり前のことだが、それが一番難しいし、一番楽しいし、一番大変で、一番体にいい。

 その後、絵を描く。今日はアクリル画。いつもの木炭紙65センチ×50センチの紙に。4枚できた。アンリミショーの個展をみてから、また絵が変わった。さらに力が抜けたかもしれない。4月21日からの個展も楽しみだ。八ヶ岳にあるギャラリーTRAXで展示してから、絵が伸びている。今のような絵を描くようになったのもまだ2年前のことである。それからずっと続けてきて、今、手元に500枚くらいある。とにかく作り続けること。人の反応はとりあえず二の次だ。まずは自分が誰からも頼まれずにただ作り続けることができるような力をつけること。それこそ、僕の体にはいい。健康のためにやる。芸術とは健康であることだ、とドゥルーズは言ったが、僕は病院に行っていることが頭の片隅に残っていて、それをどうにかクリアしたいと思っていた。今年はそのことにトライできている。

 絵がうまくいったので、気分がよくなり、自分でつくったセーター第一号を着て、短パンをはいて、散歩。橙書店まで。またここでしばし原稿。10枚書いて、編み物をして、店長の久子としばらく話していた。海猫沢めろんさんから電話。表現というバンドが熊本でライブしたいらしいのだが、どこかいいところはないかと質問。イベントのプロデュースをする友人を紹介した。めろんさんも熊本生活慣れてきたのかな。熊本は石牟礼道子をはじめ、渡辺京二さんなど作家がまだ生きている、書いている。伊藤比呂美さんもアメリカから熊本に帰ってきた。比呂美さんからメール。今度、石牟礼道子さんの新作能が熊本であるらしく、そのためのワークショップを僕と岡田利規と三人でできないかとの提案。どうなるかわからないが、ちょっと考えてみることに。

 その後、また散歩。シャワー通りにある洋服屋パーマネントモダンへ。僕のセーターを見せる。ハンガーにかけて商品のように眺めてみる。小学生の同級生、たぐっちゃんと会う。たぐっちゃんの息子が4月から僕の息子ゲンと同じ幼稚園に通うらしい。ゲンは入園のお祝いの言葉をいうことになっていて、練習中だ。たぐっちゃんが「幼稚園の園歌、坂口がつくったらしいね!」と言った。そうである。僕は今、息子、以前は娘も通っていた幼稚園の園歌を作曲した。そういうことが好きなのだ。お金にはならないが、そういう仕事こそ、僕の仕事だと思っている。あらゆる人のテーマソングをつくること。どんな人にもつくりますので、ぜひつくってほしい方は09081064666まで。

 その後、散歩しながら日航ホテルへ。ここのパントリーのくるみレーズンパンが大好物なので、買い食いしながら「あいむ毛糸屋」へ。この毛糸屋の店主がアッコ先生。アッコ先生は88歳だが、ピンピンしている。かつ美人。健康と美貌の秘訣はもちろん編み物である。アッコ先生も毛糸を買ってくれた人には0円で編み物を教えている。それで僕も習っている。彼女も0円戦士である。編み物は本当にすばらしい。編み物はじめて、薬も病院もいらなくなりました、と伝えたら、アッコ先生喜んでらした。僕のセーター完成品も見て、大喜びしてくれた。アッコ先生の毛糸屋はコミュニティになっていて、みんな編み物を習いながら、不思議な空間をつくりあげている。僕も仲間に加わっている。男は僕と後輩の26歳のひろきの二人。このひろきがまた編み物界の羽生結弦君みたいなプリンスなのである。体調が悪い人、一人でさびしい人、死にたい人、だまされたと思って、編み物をはじめたらどうだろうか。本当に効きますよ。毛糸屋でコットンの糸を買った。今度はサマーセーターだ。マルタンマルジェラで視察だけはしっかりとやったので、うまくいくはず。自分の服を自分でつくるということがこんなに心地よいとは思わなかった。

 そのまま、家族で車にのって、江津湖へ。湧き水でできた世界でも類を見ない奇跡の湖、江津湖。それが車で10分のところにあるのだから、熊本は本当にとんでもない土地だ。

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坂口 恭平
エランド・プレス
2015-07-31

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坂口恭平

行動、思考、遭遇、あらゆる僕自身にまつわる、その日常のこと、毎日接する物事、それがすべて僕の思想であり、それが僕の哲学であり、それは言語よりも前にある。先にある。先にあるものを僕は毎日生きている。息を吸いながら、それらを見ている。食べ...もっと読む

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