◆#6◆
「でも、うち以外の部署だって、実際そうじゃないスか?」おれは意識高く食い下がった。「承認を取るのにも、いくつ部署を経由してるのかイマイチわからないし、いざ動くかって時になると、やれこの件はあの部署の縄張りだからどうとか、この件の協業はあの部署に事前に根回ししておかないとだとか……バカバカしくて、ホント」
「なんだよォ、結構溜まってるンだね、香田ちゃん。ウチに異動してきたのは運命だったかな」
「そうかもしれないッスね。適性だと思ってないと、やってられないというか……」
ちらりと見たが、奥野さんは黙って聞いている。奥野さんは基本的にノーコメントだ。わからない事は口にしないという、わきまえたスタンスなのだ。おれは自分を棚に上げて、奥野さんのそういうところが信頼に足ると感じていた。
やがてエレベーターは60階に到達。気圧の変化で耳抜きをしないといけない。おれ達三人はそのまま廊下からガラス張りの通路へ渡り、屋上庭園に出た。庭師業者が植え込みの剪定を行っている横を通り、おれ達は設置された丸テーブルの席に座った。隣にはキヨスクめいた売店スタンドがあり、ドリンク類の注文が可能だ。
「奥野さんはどう、もう慣れた? 四七ソの雰囲気。困ってること無い?」
「まだまだ勉強不足ですが、よくしてもらっています」
奥野さんはいちいちかしこまって室長にお辞儀をした。
「ならよかった。香田ちゃん、あれ見て。水仙が咲いてるよ」
「はあ。凄いですね」
「せっかくこんな場所が用意されてるんだから、緑を愛でないとさ」
「いいと思いますよ……あ、来たんじゃないですか」
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