◆#5◆
「いや、参ったねェ」
室長は愛想よく言った。
「月初は今月暇だなァなんて思ってたけど、そういうこと考えるとダメだね。テキメンに来るね」
おれと奥野さんは、室長と共に60階「空中テラス」に繋がるエレベーターの中にいる。壁にへばりついたような縦のガラスチューブを上下する、見栄っ張りなエレベーターだ。
この本社ビルは、16階建て、60階建て、88階建て、103階建ての四つの棟を合体させたキメラだ。融合したそれぞれの建物の屋上部には植林が行われ、空中テラスとして社員の憩いの為に役立てられている。
上昇するこのエレベーターから見下ろせば、16階建ての棟の屋上の森が見える。出勤時、下から見上げたあの不自然な森だ。屋上スペースに植樹し、川まで流して、ビオトープみたいなものまで作っている。木には鳥が集まり、葦の間をトンボが飛び回る。まるでラピュタか何かだ。さいわいこのビルの文明は滅びていない。今のところは。
「それで、今度の部署間調整はどこの件ですか」
おれは尋ねた。もっとも、答えてもらったところで、特に何か合点がいくという事もない。
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