◆#4◆
年上の部下ってのは本当に困る。正直どんな話をふったらいいかわからないし、常にその……緊張感があった。
「ア……どうも」
「どうも」
今朝も会話の糸口は掴めなかった。おれは手持ち無沙汰を感じ、PCを立ち上げて隅のコーヒーを淹れに行った。備品のPCは遅くてひどいものだが、コーヒーマシンがあるのはいい。
「俺も飲もう。オカワリちゃん」
室長が馴れ馴れしい口調で隣にやってきた。
「早いねえ香田ちゃん。どうしたの」
「まあちょっと。テンション上がっちゃって」
おれは言葉を濁した。ドルや円高の話などすべきではない。ましてや、おれの口座の現状など。オフィス内でこういう生々しい話は厳禁だ。おれの株が下がり、評価にも影響するだろう。
「でも、僕は遅刻キャラじゃないですよ。井上と違って」
「同じようなもんでしょ」
やや辛辣な言葉が横から飛んだ。いつの間にか出社してきた鉄輪(かなわ)だった。彼女はおれと同期で、もともと現場仕事だったのだが、内勤に異動させられて普段からイラついている。鉄輪はおれの肩に訝しげに顔を近づけ、フンフンと鼻を鳴らした。
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