◆#1◆
「ですから、このような事は倫理的にも決して許されず……アグッ!」
峰の視界にスパンコールじみた星が散った。背後から後頭部を銃底で一発。まるで映画のような手際だった。オフィスに銃。法治国家ではあまり馴染みのない絵だが、残念ながら現実だ。
「当然すすめるさ。俺はそういう契約で来てるんだ」
”サカグチ” が黒い拳銃を胸のホルスターに仕舞った。峰はその動きを目で追おうとする。いま思えば最初からこの男は臭かった。名刺を出そうとせず、IDはおろか、サカグチがどんな漢字なのかも解らず仕舞いだ。本名かどうかすら怪しい。
「ううッ……」
「お前、まだ意識あるのか。頑丈な奴だな。でも頑張りどころをまるで解っちゃいない」
サカグチは言った。
「いいか、日本は沈没するんだぜ。そんな泥舟にいつまでも乗り込んでいられるほど、我々は呑気じゃない」
歳は30代後半。きつめのパーマに顎髭。淡いピンク色の混じったストライプシャツ。鋭いネクタイ。やや艶のあるスーツ上下。小洒落た革のスリッポンを素足の上に履いている。峰は反論しようとした。だが言葉が出てこない。もう呂律も回らなかった。
「処理業者、次、何曜日だっけ?」
サカグチが近づいてきた。峰の意識はそこで飛んだ。
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