哲学と冒険

身に覚えのない記憶を懐かしんでいる

行動、思考、遭遇、あらゆる僕自身にまつわる、その日常のこと、毎日接する物事、それがすべて僕の思想であり、それが僕の哲学であり、それは言語よりも前にある。先にある。先にあるものを僕は毎日生きている。息を吸いながら、それらを見ている。食べている。食べながら、何かをつくろうとしているわけではない。それによって何かをつくりたいわけではない。僕はただそうやって生きたいだけだ。僕は毎日、原稿を書き、絵を描き、歌をうたい、人々と出会い、本をつまみ食いし、画集をつまみぐいする。だいたい毎朝8時更新。お休みすることもあり。


2018年4月1日

 名古屋ワシントンホテルで目がさめる。昨日、一昨日とニューアルバム「アポロン」ツアー2days。一昨日は大阪のライブハウスcompassにて。ライブハウスでやるなんていつぶりだろうか。そういえば二十歳の頃、弟と二人でギターとコンガを持って下北沢シェルターでオーディションを受けたことがある。リッチー・ヘブンスに影響を受けていた僕は5、6弦だけ張ったギターをかき鳴らして、即興日本語で歌をうたった。終わったあと、シェルターのスタッフに「いいねー! でもうちじゃないね!」と言われ、それ以来一度もオーディションは受けてないが、歌はうたってる。リハーサルからいい調子。バンドメンバーはピアノとボーカルが寺尾紗穂ちゃん、ベースがceroで弾いてる厚海義朗、ドラムは坂本慎太郎さんのソロで叩いている菅沼雄太さん。この四人でいると僕は心が落ち着く。まだライブはこれで四回目だけど、そんな気はしない。これからもずっとこの四人でやっていきたいと思っている。ツアーで旅をしていても気を使わない。僕はすぐ人に気を使うので、こんなこと珍しい。

 リハーサルのあと、NHKのディレクターの狂人青山くんがやってきてなにやら僕のドキュメンタリー番組、しかもかなり狂った感じの新政府満載の番組にしたいと意気込んでいる。青山くんがやる気ならこっちもなんだってやるよと伝えた。携帯電話番号09081064666連呼して、0円生活圏だって実現しちゃおう。年内にできるといいな。といいつつ、僕はあまり表に出るのもどうかなとも思っているので、要調整である。今はまだ潜むときだと思っている。それよりも今は歌だ。歌をうたっているとき、僕は心から喜びを感じている。出発前に下北沢の喫茶店いーはとーぼで(そういえば前野健太もよく通っている。そういえばこの前、前野健太に新曲ができて興奮して電話したけど、やっぱり彼は出なかった! その後、アポロン良すぎるよ! というありがたいメールもらって嬉しかった)玉置浩二の本があって、それを読んでいるが、玉置浩二と僕の共通点が多く、なんだか親近感、かつ、歌のうたいかたを研究したい。歌のことばかり考えている。

 そして、いーはとーぼで買ったもう一冊の本がジャン・コレ著『現代のシネマ ゴダール』。そこに「哲学と冒険」という項目のゴダールによるエッセイが掲載されていた。バルザックの説明のところで、ゴダールは「バルザックは哲学であり冒険である。それは映画に適っている。だからバルザックを脚色せよというのではない。映画とはそういうものだといいたいのだ。すなわち、冒険であると同時に、その冒険の哲学であるべきなのだ」という文章を読んで、ピンときた。そして、すぐに梅山に電話。行動、思考、遭遇、あらゆる僕自身にまつわる、その日常のこと、毎日接する物事、それがすべて僕の思想であり、それが僕の哲学であり、それは言語よりも前にある。先にある。先にあるものを僕は毎日生きている。息を吸いながら、それらを見ている。食べている。食べながら、何かをつくろうとしているわけではない。それによって何かを作りたいわけではない。僕はただそうやって生きたいだけだ。僕は毎日、原稿を書き、絵を描き、歌をうたい、人々と出会い、本をつまみ食いし、画集をつまみぐいする。手元にはヴィンセント・ギャロの画集と、ジャコメッティのドローイング集がある。編み始めたばかりのセーター第2号がある。タバコがある。ギターがある。隣にはバンドメンバーがいる。これは昨日の出来事である。しかし、それが今、僕の目の前にせまってきている。

 ライブは僕につぎの動きを促した。翌日の、つまり、昨日の名古屋でのライブでさらにそれが確信につながった。名古屋では金山ブラジルコーヒーという普段は喫茶店をしているところでライブをしたのだが、声が出ず、大阪のボイスクリニックへ行き、声帯にステロイドを点滴でぶちこみ、どうにか声が出た。名古屋に音楽家がたくさんいた。名古屋は音楽の土壌が豊かだった。発酵していた。土の匂いがぷんぷんした。名古屋でマンスリー企画みたいにしてライブをやっていったらどうかと思った。菅沼さんは「坂口くんは、どんどんやればやるほどもっとやるから、きっといつか1日でとんでもないことやってそのまま死んじゃったりするから、力をゆるめたりしないとだめだよ」と言った。さらに菅沼さんは「坂本慎太郎さんと坂口くんのバンドでドラム叩いてたら、二人とも歌詞をちゃんと書いているから、他のバンドでやってるとちょっと不感症みたいになってる」と言った。それは嬉しかった。新曲ができたので、今度は山中湖にあるもともとビクターのスタジオだったのを、取り壊し寸前に救った人がいるらしく、そこのスタジオを菅沼さんが紹介してくれた。5月末にレコーディングすることに。なんだかどんどんつぎが生まれていく。

 僕は自分自身を生でとらえたい。生のままで、それをむきだしにして、その運動そのものを、作品化するのではなく、その運動そのままで生きたい、それをまとめるとかそういうことよりももっと先へ行きたい。そんなことを考えながら、車でみんなで帰ってくる。ツアーは大成功。音楽に自信もついた。新しい歌も生まれた。編み物をはじめて3ヶ月、ようやくセーター第1号が完成した。編み物をはじめてから、薬も完全にやめ、病院に通うのもやめた。それよりももっと先へ、もっとつくろうと試みている。試みることすら退屈だ。試みる前に、やる。これが何になるかとかそういうことすらどうでもよく、ただやる。

 どうすればいいか。ただ書けばいい。ただ描けばいい。それらをひっくるめて、歌えばいい。できるか、できないか、できないならまた別の方法でやればいい。そうやって少しずつ芯に近づいていけばいい。はじめはバントの練習から。バッドに当てる練習。練習が好きだ。習慣こそ冒険。安全地帯10周年記念アンプラグドライブの映像をYouTubeで見ながら、エメ・セゼールの『帰郷ノート』を読みながら。池田三四郎がコレクションした椅子が編まれた『三四郎の椅子』を見つつ、個展のための椅子の設計をぼんやりと考える。

FURUMAI (Errand Press Postcard Book)

坂口 恭平
エランド・プレス
2015-07-31

この連載について

哲学と冒険

坂口恭平

行動、思考、遭遇、あらゆる僕自身にまつわる、その日常のこと、毎日接する物事、それがすべて僕の思想であり、それが僕の哲学であり、それは言語よりも前にある。先にある。先にあるものを僕は毎日生きている。息を吸いながら、それらを見ている。食べ...もっと読む

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