燃やされた機密文書

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたい」
世界一売りづらい「殺し」を売るための会社作りに奮闘する女子大生、桐生七海の会社が警備を担当するリサイタルにおいて殺人事件が起こる。七海の最大のピンチにおいて、「最強のマーケティング技巧」を持つ西城は「今がチャンス」と言い切り、次の一手を伝授する。そして物語は次の展開へ――。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第21回。

窓からは、東京の街が一望できる。

あいにく、空が霞んでいてさやかには見えなかったが、天気のいい日などは右手に富士山も望むことができた。

応接間には暖炉があって、大きな楕円形のアンティーク・テーブルがあった。季節外れなのに、暖炉に火が灯されている。それなのに涼しいのは、エアコンが効いているからだ。

窓に面する席には、すでに、短髪の、ブラックスーツを着込んだ背中の広い男が、入り口に背を向けるように座っていた。窓から、東京を一望しているのだろう。右手には、ティーカップがあった。

桐生譲が部屋に入ると、その気配に気づき、男が椅子を回転させてこちらを向いた。ティーカップをテーブルの上のソーサーに置き、縁なしのメガネをくいっと上げて、焦点を合わせ るようにして桐生の顔を見た。

表情からは、あらゆる感情が読み取れなかった。そう訓練されているということも理由だろうが、元々、そういう性質の男なのだ。

「遅れてしまって申し訳ありません」

桐生が頭を下げようとするのを、鷹揚な仕草でその男は遮った。

「いいんだ、わかってる」

その男、児玉宗元は、無表情なだけではなく、元々、感情の起伏が激しくはない。 もしかして、この人は感情を平坦に保つことを自らに課しているのではないかと桐生は思っている。それも長い付き合いの中で気づいたことで、強面の風貌と経歴ゆえに、その人格を誤解されることが多い。

内閣総理大臣特別補佐官という役職が、児玉をそうさせているのかもしれない。その表向きの役職を、これまで三代の総理大臣の元で一三年間務めている。

児玉宗元は、裏の世界では「フィクサー」と呼ばれている。と言っても、この「目白台」の主宰ではない。密かに継承されてきた最高意思決定機関の事務局長である。

「例の物を」

児玉は手を差し出した。桐生は、持ってきた書類ケースを差し出す。 児玉はそれを受け取り、慣れた手つきで書類を取り出し、メガネを上げて、焦点を合わせ直すと、まるでスキャンするような信じられないスピードで、目を左右に動かし、ページを捲り、書類を読み込んでいく。

瞬く間に読み終えると、躊躇することなく、児玉は文書を暖炉に投げ入れた。 まもなく、文書は激しく炎を上げた。

機密文書は、電子的なファイルのやり取りを決してしない。必ず漏洩するからだ。そのため、ワープロか手書きで作成し、必要な人が読んだ後は、すぐに焼却される。

「まずいことになった」

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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