ノベルティソングだからこそにじみ出る本質
大谷ノブ彦(以下、大谷) 米津玄師さんの新曲「Lemon」、たまんないですね。
柴那典(以下、柴) ほんと名曲だと思います。主題歌のドラマ『アンナチュラル』も最高で、毎回この曲が絶妙なタイミングで流れるんですよ。
大谷 この曲、ノベルティソングだからこそ、米津くんの本質がぎゅっとつまってると思うんです。
柴 そうなんですよね。ノベルティソング、つまりCMとかドラマとか、そういう企画ありきで作った曲にその人らしさが出る。
大谷 そうそう。
柴 この曲、もともと米津玄師さんはドラマにあわせて「死」をテーマにした曲を書こうとしてたんですって。そうしたら、途中でおじいちゃんが亡くなってその構想が一度ゼロになって。ただただ自分の大事な人が亡くなって悲しいという気持ちに沿って曲を書いたら結果的にドラマにハマったという。そういう意味でもすごく米津さんらしさが出てる。
大谷 星野源さんの「ドラえもん」も最高のノベルティソングですよ。あれ、子供たちがめっちゃ歌ってるんです。
柴 前にこの連載でも「笑点とガンボをミックスしてめちゃくちゃ革新的なことをやってる」って語ったけど、子供たちはそんなこと関係なく、ただ楽しくてキャッチーな曲だから歌うわけですよね。
大谷 そういうことが起こるのも映画の主題歌ありきのノベルティソングだから。すごいですよ。
柴 ほんと、星野源は日本のポップスの希望だなって思います。
大谷 あの大滝詠一さんも「僕の作る曲は全部ノベルティソングだから」って言っていて。何かの企画ありきで音楽を作ることこそポップスの王道なんだって思うんですよね。
大瀧詠一は、おもしろい人である。
柴 大滝さんと言えば、先日、「夢で逢えたら」の1曲だけが86曲も収録されたアルバムが発売されたんですよ。
大谷 86曲って、すごいな。めちゃめちゃカバーされてるんだ。
柴 「夢で逢えたら」って、オリジナルで吉田美奈子さんやシリア・ポールさんが歌ってた当時はそこまでヒットしなくて。そこからいろんな人がカバーしていくうちにどんどん大滝さんの代表曲になっていったんですよね。
大谷 僕のこの曲のイメージはラッツ&スターですね。この人たちが歌うにしてはなんでこんなに女々しい曲なんだって思った覚えがあるな。
柴 大滝さんって、もはや日本のポップスの神様のようなレジェンド感がある人ですけど、実はおもしろさをすごく大事にしてる人だと思うんですよ。
大谷 「イエロー・サブマリン音頭」とか「ナイアガラ音頭」とかね。
柴 そうそう。それを音頭にするか! っていう。コミックソングとかパロディの曲もたくさん作ってますし。それで言うと、今回の「夢で逢えたら」だけが何十曲も入ってるアルバムを出すという企画にも、じわじわとしたおもしろさがある。
大谷 たしかにね(笑)。
柴 文章家としての大滝さんもおもしろいんですよ。『大瀧詠一Writing & Talking』っていう900ページくらいある本があるんですけど。
大谷 すごいなあ! どれだけ書いてるんだってことですよね。
柴 読むと、文体とか語り口調は結構ふざけてる。タモリさんに近いイメージなんですよね。
大谷 「夢で逢えたら」も、曲中に語りがあったりして、ポップスにしてはちょっとおもしろさのある曲ですよね。
柴 あの語りのアイディアって、都々逸(どどいつ)※から来てるんですって。
※都々逸:七・七・七・五の音数律で男女の情愛などをうたう口語による定型詩
大谷 そうなんだ! 星野源が笑点とガンボをミックスしたみたいに、大滝詠一も都々逸と60年代のアメリカンポップスを合体させてるってことだ。
音楽の地層をつくるには
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