■技術1 「オンレコ」を「オフレコ」に近づける
「たてまえ」と「本音」
「プライムニュース」は平成二十一年四月一日に放送が始まりました。
平日の午後八時から九時五十五分まで約二時間、生放送される報道・討論番組で、始まった当初から僕がメインキャスターを務めています。
大役に抜擢されて喜んで引き受けたかと言えば、全くそうではありません。
実のところは断りたかったのですが、サラリーマンですから、引き受けました。断りたかった理由はいくつかあります。まずは自分自身が「テレビに出たくて」テレビ局員になった訳ではないことです。記者ですから、取材して伝えることに抵抗はありませんが、スタジオに毎日すわって話すことへのためらいは強くありました。また、記者活動という点から言えば、取材にあてる夜の時間を拘束されるので、取材の時間がなくなる点も不安でした。
政治家の多くは、なぜか昼間は本当のことを話してくれません。基本的に公的モードに入っているので、何を聞いても「たてまえ」の話が多くなりがちです。そうなると、「本音」の部分が分からなくなってしまう。
物事には全て「表」と「裏」があります。
テレビで人が言うこと、新聞や雑誌に発表されることは、たてまえであることが多い。別に噓を言っているわけではなく、あくまでも「たてまえ」だということです。
政治記者の取材には、「オンレコ」と「オフレコ」と「完全オフレコ」の三つがあります。 「プライムニュース」のようなニュース番組で話されていること、記者会見やインタビューで話していることなど、誰が何をしゃべったのかが全てオープンになっているのはオンレコです。
オフレコは、発言の内容ははっきりとさせますが、それを誰が、いつ、しゃべったのかという出どころはぼかします。原稿では「政府筋によると」などという書き方をします。
完全オフレコは、誰がいつ言ったのかはもちろんのこと、発言の内容もいっさい公開しないことを前提に聞いた情報です。
僕は平成十四年から三年間官邸キャップをやって、小泉政権をずっと見続けてきたのですが、その時期は首席秘書官の飯島勲さんを担当していました。
朝の六時半に車が家に来て、まず朝回り。
そこから記者会館に行って仕事。キャップなので、他の記者から上がってくるメモや原稿を読んでまとめることが主な仕事でした。
夜は自分で取材に行ったり、原稿を書いたり、記者会館でしゃべったりして、その後、日付が変わるまで取材をします。そこから家に帰り、翌朝また六時半に車が迎えに来る。これが週五日続きました。
あの頃は、郵政解散があり、小泉純一郎首相の訪朝があり、香田証生さんがイラクで人質になって殺害されるなど、いろいろな事件がありましたから、とにかく徹底的に飯島さんをマークしました。
プライムニュースは「表芸」
政治家の情報発信は「オンレコ」と「オフレコ」に分けられます。オンレコで話すメリットは、顔も名前も明らかにして意見を述べることで自らの思う所をメディアを通じて広く世の中に伝えられることです。この「広い認知」は政治家にとってのメリットです。一方、オフレコとは匿名を条件にした情報提供です。政治家の人たち、政界関係者の人たちは公的な記者会見は別にして、個別に記者に対してしゃべる義務はありません。例えば官房長官は一日二回の記者会見はするけれど、それ以外に個別の取材に応じたり、ましてやオフレコの情報を流す義務は全くありません。
にもかかわらずなぜ政治家は話すのか。