柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第4回

大手ゲーム会社グリムギルドから契約破棄され、プログラマーの白野高義はただ途方に暮れていた。そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、見知らぬ強面の男・灰江田直樹。彼はグリムギルドを辞め、レトロゲームを最新機用に移植する小さな会社「レトロゲームファクトリー」を興していた。レトロゲームを愛する白野は、灰江田の会社で働きたいと懇願し――。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。




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「レトロゲームファクトリー(新潮社/柳井政和)」


 返事はない。受け入れてくれるのか駄目なのか。白野は懸命に、自分の能力をアピールする。スマートフォンやパソコン向けのゲームだけでなく、家庭用ゲーム機向けのプログラムも書いたことがある。最新のプログラミング言語だけでなく、アセンブラといった機械寄りの言語も使える。ハードウェアについての知識もある。英語も堪能で、読み書きだけでなく会話もできる。あまりにも次々と並べ立てたことで、自分はスーパーマンかと突っ込みを入れたくなる。しかし、話し下手で交渉下手な白野の主張は、周囲のテンションを徐々に下げていった。  
 白野の肩に、ナナが手を置いてきた。
「コーギーくん。そんなに必死にならなくてもいいわよ。いま言ったことが本当なら、こんなところで働いたら駄目よ。こんな奴に関わったら人生を棒に振るだけだから」
 憐れむような声でナナは言う。
「こんな奴ってなんだよ」
「コーヒー代を、月末まで払わないような男」    
 ナナの突っ込みに、灰江田は苦々しい顔をして、そっぽを向いた。灰江田の敗北を受けて、常連客たちがナナをたたえる。灰江田は、その声から逃れるようにコーギーに顔を近づけて、ささやいてきた。
「会社の一員になりたいって言ったってよう、本当のところの実力は分からねえから、なんとも言えねえしよう。とりあえず外注として、一つか二つ仕事を回してやる。それで社員にするか判断するってことでどうだ」
「はい」
「あと、そもそもうちは人を雇えるほど金がない。だから、仮に雇うことになっても、給料はくっそ安いぞ。俺の給料を削って、どうにかやりくりすることになる。それでもいいなら考えてやる」 「ありがとうございます」    
 白野は笑顔で言う。その明るさに、陽光を浴びた吸血鬼のような表情を浮かべたあと、灰江田はコーヒーカップを口に運んだ。
「しかしまあ奇特な奴だな。うちの仕事なんて、時代の一番うしろのものだぜ。最先端じゃなくて最後端。若い奴が積極的に選ぶ内容じゃねえぜ。まあ、レトロゲームに関わりたいってんなら止めねえけどな」    
 灰江田は、ため息とともにコーヒーを飲み干す。
「それじゃあ早速、いま抱えている案件はありませんか。チャレンジしたいです」    
 白野は灰江田に迫り、答えを待つ。
「まあ、あるにはあるが。ちょいと難易度が高いぞ……」    
 最初の仕事は、ファミコン向けパズルアクションゲームのスマートフォンへの移植だった。ヤヌスの扉というゲームで、白野はその移植を三週間で成し遂げる。灰江田はその出来に目を見張り、元の開発者たちも太鼓判を押した。    
 灰江田は「まだまだテスト期間だ」と言い張り、すぐに次の仕事を白野に回した。二番目の仕事は、ホビーパソコン向けアクションRPGの、スマートフォン向けリメイクだ。ハイランドエターナルというゲームで、グラフィッカーは灰江田が手配して、プログラム部分を白野が担当した。白野は一ヶ月半という時間で、完璧と言える移植をおこない、灰江田や発注元を驚愕させた。
「分かった。おまえの実力は本物だ」   
 ドットイートの店内で、灰江田は白野の実力を認めた。白野は喜び、二人のやり取りを熱心に見守ってきたナナと常連客たちは、歓声を上げた。そして、二つ目の案件の完了から一ヶ月後、白野は住んでいたアパートを引き払い、横浜の鬼瓦第三ビルの近くに引っ越した。    
 白野は、コーヒーの杯(さかずき)を交わして、常連客たちからドットイートの仲間として迎え入れられた。そして、店の人間たちからもコーギーという愛称で呼ばれるようになった。灰江田はぶつぶつ言いながら、白野のことを受け入れた。白野は灰江田の会社の社員になり、レトロゲームの移植やリメイクをこなすようになった。

■第一章 UGO(ユーゴー)

 七月の出会いから一年と三ヶ月、灰江田は三十七歳、コーギーは二十二歳になった。  

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新潮社
2018-03-16

この連載について

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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ruten 小説『レトロゲームファクトリー』のcakes連載第4回が、先週の金曜日に公開されました。ゲーム好きの人も小説好きの人も是非。 https://t.co/Yh4FTVgAbo #cakes #小説 #ゲーム #レトロゲーム https://t.co/eFeOI4E1rA 10ヶ月前 replyretweetfavorite