若者に「失敗したら終わりだ!」と思わせてしまう社会でいいの?

マニュアルにとらわれず、失敗することを奨励する『大学1年生の歩き方』の著者、トミヤマユキコさん(早稲田大学助教)と清田隆之さん(恋バナ収集ユニット桃山商事代表)の対談。前編は、失敗してもいい社会について考えます。全3回です。
「失敗しろ!転べ!そして立ち上がれ!大丈夫だから!」
(書籍『大学1年生の歩き方』連載はコチラ

自分の力を低く見積もってしまう大学生たち

トミヤマ わたし、学生のポテンシャルって本来とても高いものだと思ってるんですね。しかし教育の様々な「効率化」のなかで、先生たち自身が学生のことを諦めてしまっている。先生たちも忙しいので、無駄を省くほうが楽だから、ついつい学生にマニュアルを与えてしまうという面があると思います。

学生に対する信頼というか、「君たち、本当は『できる子』なんだから」といったことを教員が表現しなくなっていく。そうすると学生も「自分は大したことないんだ」と思い、自分の頭で考えるよりもマニュアルや教科書通りにやって、80点をキープしていくような世界に入っていってしまう……。

それを実感したのは、とある大学で非常勤講師をしていたときなんです。わたしは学生を盛り上げるのが好きなので、「面白いじゃん、目のつけどころがいいね」といった感じでレポートとかプレゼンとかを褒めまくる。学生それぞれに、君はこういう文章が書ける子だねとか、こういうところが苦手だねとか、一種のカウンセリングのようなことをするんですよ。すると学生が「そんなふうに言われたことがない」ってすごく驚くんです。

そんなに驚くことかなあと思って話を聞いてみたら、東大出身の超優秀な先生とかが「これから言うことは、まあ君たちにはわからないだろうけど」みたいなことを言ってから授業を始めるんだと。そういう環境ですから、学生が自分を低く見積もってしまうんですね。「俺たちはバカなんだ」とか、「先生は俺たちにあわせて授業をしてくれているんだ」とか。

それを聞いて、先生もひどいなとは思ったけど、しかしそうなってしまう大学なり社会なりのシステムがあるわけで、先生ひとりを責めるのも違うなと思いました。

本書では学生のポテンシャルを100%信じています。リーダブルな本ではありますが、劇薬のように即効性がある本ではないので、辛抱強く味読することが求められると思うんです。でも、学生にはこういう本を読みこなすポテンシャルがあるし、多少キツくても読みこなすべきだし、読めたという実感も味わってほしい。

ただ、わたしが学生の能力を低く見積もったり、効率化を望まずに済んでいるのは、おそらく非正規雇用の教員だからなんですね。基本的に授業だけをやっていればいい気楽な「野良講師」なので(笑)、専任ほど忙しくない。それと年齢的にも学生と距離が近い。そういう条件が揃ってはじめて、いま言ったような、非効率的で非マニュアル的な意見が出てくるのだと思います。そういう意味で言うと、本書はいまだからつくれた本だと思います。

清田 でも、そういう立ち位置の先生ってすごく貴重だと思う。僕も予備校に通っていたとき、他の講師とは毛色の違う小論文の面白い先生に救われた経験があって。先生と生徒って、基本的には「教える人と教わる人」という上下の関係になるじゃないですか。でもその先生には違うものを感じた。授業で雑談というのとも違う、自分の体験談を交えた人生の話をしてくれるんですよ。

それが当時、浪人という身分で不安しかなかったぼくを勇気づけてくれた。あれはもしかしたら、一人の大人として、理解力のある人間として扱ってもらっているという喜びだったのかな。その感覚は、トミヤマさんに褒められて驚いていた学生と通じるところがあると思う。

トミヤマ その経験が大事だよね。

清田 他者や社会からの「扱われ方」って、怖いくらい自分に影響を及ぼすもんね。本書では「ジェンダー」の問題にも触れているけど、これなんてまさにその典型で、例えば 「あなたは男の子ですよ」「男は強くなきゃダメなんだよ」って扱われると、その価値観を空気のように吸い込んで内面化していき、無意識的にそうあろうと目指してしまうので……。

トミヤマ 非常勤でいろいろな大学に行った経験から言うと、偏差値や男女別学などは関係なく、どこへ行っても、自分を低く見積もり、8割くらいの力でやるのがベターであるという考えがはびこっています。早稲田大学なんて、野良犬みたいな学生がもっといてもいいと思うんだけど(笑)、すごく少ないんですよ。

本にも書きましたけど、破天荒ですごく面白い考えをする学生がいて、わたしは大好きだったんだけど、本人はそのことをあまりよく思っていなくて、何事においても8割くらいをマークする学生でいたいと言うんです。「なんで?」と訊くと、「だって、怒られるのがイヤだから」。20年ぽっちしか生きていないのに、「こんなに長く生きてきたから、もう大人に怒られるのはイヤ」だと。怒られたくない、スベりたくない、悪目立ちしたくない。その負荷に耐えられない。失敗を笑える 「過去恥部」にするつもりもないというか……。

清田 つらいね……。この本で我々は、とにかく「転び方と起き上がり方を身につけてほしい」ということを繰り返し言っている。「転びたくないよ」という気持ちはわかるけど、その一方で「一度も転ばない人生なんかあるわけないだろ」とも思う。……でも違うのかな。いまの学生たちには「転ぶことにも意味がある」と思える余裕すらないのかな。

トミヤマ 恥をかくこと、先生に怒られること、失敗することなどを、人生の「肥やし」ではなく「無駄」なことだと感じているんじゃないかな。


幸福度を支える「失敗しても大丈夫」という感覚

清田 でも、それって「最近の学生はけしからん」的な話ではまったくないんだよね。絶対に「環境」の問題が大きいと思う。

というのも、世界を旅して各国の幸福度を調査した『世界しあわせ紀行』(エリック・ワイナー/早川書房)という本があって、そこにはこんな事例が載っている。幸福度というのはその国の人がどのくらい「自分は幸せである」と感じているかを10点満点中何点で示す尺度 ( =世界幸福データベース)なんだけど、ここで上位に来ているのがアイスランドなのね(幸福度は8.2。ちなみ に日本は6.5)。冬は太陽が昇らないし、凍土で野菜が育ちにくいこの国の人々が、なぜ自分たちのことを幸せだと思えているのか。

その背景にあるのが「失敗を推奨する文化」なんだって。例えば若者が「バンドで食っていきたい」 と言い出したら、日本ではまず止められると思う。でも、アイスランドではむしろ良しとされ、親も当たり前のように支援する。うまくいかないのはわかっていても、お金を出す。アイスランドでは誰も失敗を恥ずかしいことだと思っていない。むしろ名誉なことだとすら考えられている。これが高い幸福度の根拠だというのよ。

トミヤマ 失敗してもいい社会って最高だね。

清田 そうそう。まさに「再チャレンジ」社会なんだよ。これって安倍さんが初めて首相になったときに提示していたスローガンだけど—実際にやっていたことは真逆だと思いますが —、「みんな再チャレンジできるよ」という空気感、制度、お金があれば、たった一回の失敗を致命傷と捉えてしまう感性は育たないはず。「環境」をつくりだしている大人たちが学生を追いこんでいるのにもかかわらず、その環境で育った、失敗を恐れる学生たちを見て、「最近の若い奴は……」なんて言っているのは地獄のような構図だと思う。


僕もトミヤマさんも、年齢的に学生とお偉いさんたちの間に立つ中間管理職みたいなところがあるじゃないですか。「中年のオッサンの言うことなんか聞いちゃダメだよ」と言いながらも、この社会のシステムに乗って生きていかなければいけない苦しさ痛いほどもわかる。

トミヤマ お互い、いまの立場とか年齢だから書けた本だよね。まだ上から目線で説教できるほどの立場でもないし、ある意味ですごく中途半端。でも、そこが長所だと思う。中途半端な人間が書いたから、学生さんたちが「こいつらの言ってることホントかな……」と、疑いをもって読んでくれるのもいいなと思ってるし。

これが、教育学や社会学の権威がデータをバリバリ使って書いた本だと、「正しさ」で学生を縛りつけるようなことにもなりかねない。 その点、われわれは3年で契約を切られる大学助教と、わけのわからない恋バナおじさん(笑)。

われわれが全然偉くないことによって、むしろ学生が本書の内容を疑いながら読み、本当に使える情報を吟味してくれる、つまり使い倒してくれるのではないかと思うんですよ。中途半端な奴らが「失敗しろ! 転べ! そして立ち上がれ! 大丈夫だから!」とひたすら言っている……なんか、変な本になっちゃったな(笑)。

清田 思えばよく出版できたものだよね……。有名な著者でもないし、実用本や情報商材として見ると、なぜわれわれが大学に関する本を書いたのかという根拠が弱い(笑)。でも、小難しい内容ではないし、癒される面があるというか、優しい本ではあると思う。それって多分、大学生と遠いところにいる偉い人間ではなく、中途半端なわれわれだからこそ出せた優しさだと思う。


トミヤマ 自画自賛(笑)。

漫画:死後くん(『大学1年生の歩き方』より)

(中編は、4月16日(月)公開予定です。)
本文構成:須藤巧(図書新聞 2017年6月10日号より転載)
写真:左右社

大丈夫、絶対に何とかなる!

大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ

トミヤマユキコ,清田隆之,死後くん
左右社; 46判並製版
2017-03-27

この連載について

トミヤマユキコ×清田隆之(桃山商事)対談「失敗したって、どっこい生きてる」

清田隆之(桃山商事) /トミヤマユキコ

失敗しろ!転べ!そして立ち上がれ!大丈夫だから! マニュアルにとらわれず、失敗することを奨励する『大学1年生の歩き方』の著者、トミヤマユキコさん(早稲田大学助教)と清田隆之さん(恋話収集ユニット桃山商事代表)の対談です。

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コメント

34colorchoice79 わかるなーー完璧主義の人だとほんと潰れやすい、かくいう私も 約1年前 replyretweetfavorite

thinktink_jp "世界を旅して各国の幸福度を調査した『世界しあわせ紀行』(エリック・ワイナー/早川書房)という本があって、そこにはこんな事例が..." https://t.co/JNcgJswuX4 https://t.co/dg0FoRDzgf #drip_app 約1年前 replyretweetfavorite

bear_yoshi 「そんなに驚くことかなあと思って話を聞いてみたら、東大出身の超優秀な先生とかが「これから言うことは、まあ君たちにはわからないだろうけど」みたいなことを言ってから授業を始めるんだと」/| 約1年前 replyretweetfavorite

merli “東大出身の超優秀な先生とかが「これから言うことは、まあ君たちにはわからないだろうけど」みたいなことを言ってから授業を始めるんだと。そういう環境ですから、学生が自分を低く見積もってしまうんですね” https://t.co/3KZNLJmE8V 約1年前 replyretweetfavorite