ミックス。

第4回 泣いてもしょうがない、二つに一つしかないんだから。

幼い頃からのスパルタ教育により、天才卓球少女と呼ばれていた多満子は、母の死後、卓球を捨て、平凡なOL生活を謳歌していた。しかし、結婚を夢見た相手に裏切られ、会社を辞め実家に身を寄せることになり…!?   月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」の脚本家、古沢良太の映画「ミックス。」オリジナルシナリオ!


34 山彦町・美しい情景


35 富田家・居間

達郎、仏前に手を合わせ、仕事へ出るところ。

達郎「じゃあ、お父さん仕事に行くから」

多満子「……行ってらっしゃい」

多満子、廃人。ソファに寝そべってテレビを見ながらスナックをむさぼっている。

達郎「……まあ、あの、勿論、いつまでいたっていいんだよ、でも少しはお金を入れてもらえると助かるんだけどね……実は、借金があって」

多満子「……借金?」

達郎「大した額じゃないけどね、古い友達がお好み焼き屋を始めるのに保証人になったら、まあ、それっきりで……」

多満子「ダメよ、簡単にハンコ押したら」

達郎「うん……だからね、クラブも売ろうかと思ってる」

多満子「……」

達郎「生徒さんも集まらないし、教える人もいないしね……13回忌も済んだしお母さんも分かってくれると思う」

多満子「……」

達郎「また昔みたいに繁盛する日が来るなんて……夢のような話だろう?」

達郎、出てゆく。

多満子「……」


36 フラワー卓球クラブ・前(夕)

町はずれ、夕暮れの中ぽつんと灯りをともしている卓球場。

それを遠巻きに見つめている多満子。

多満子「……」

そっと近づいてゆき、窓から中を覗く。

落合元信(52)、落合美佳(50)、佐々木優馬(17)が雑談しながら、下手な卓球をしている。

多満子「……」

弥生の声「……お嬢?」

多満子、恐る恐る振り向く。

自転車に乗ったジャージ姿の吉岡弥生(34)。

多満子、反射的にダッシュで逃げる。

弥生、自転車で猛追。

弥生「私よ!弥生!バックハンドドライブの弥生ー!」


37 河原

話している多満子と弥生。

弥生「笑っちゃうでしょ、今じゃただの社交場。コーチもいないしさ、教えられるの私くらいなんだもん、一番問題児だったのにね」

多満子「髪、真っ赤に染めてね」

弥生「今じゃすっかりセレブ妻よ」

多満子「お医者さんと結婚したんだっけ」

弥生「卓球より男釣る方が得意だったから。(笑う)暇持て余してまた始めたんだ。……お嬢は何で帰ってきたの?」

多満子「んー……」

弥生「(冗談ぽく)やること決まってないならクラブでコーチやったら?」

多満子「(苦笑)15年ラケット握ってないんだよ?もうルールも忘れたわ」

弥生「お嬢がいればきっと会員増えるわ、昔みたいに繁盛するよ。今、通ってる人たちもね、クラブをとっても愛してくれてて、大切な場所になってるのよ」

多満子「弥生さん……私にとって卓球は黒歴史だよ。やっとあそこから抜け出した。二度と戻る気はない」

弥生「……」

多満子「こっちに長居する気もないんだ、大手の外資系から声かけられててさ、キャリアアップしないとね」


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ミックス。

古沢良太 /コルク

偶然の出会いが、わたしの人生を変えたーー。 脚本家・古沢良太の映画「ミックス。」オリジナルシナリオを特別公開! 男女混合ダブルスに挑む、元“天才卓球少女”を演じた新垣結衣が、日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した話題作。

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