復讐手帖

妻の留守中に相手の自宅へ。夫妻の寝室で 後、わざと痕跡も残し……

配偶者の留守に不倫相手の自宅へ行くことがどれほど危険かは、ちょっと考えれば誰でもわかるはずだ。それなのに、男に誘われて相手の家へ行ってしまうケースは少なくない。
女性が未婚ならまだ、「どうしても家を見てみたかった」という興味が勝つのかもしれないが、ダブル不倫という立場であればその危険性に気づいてもいいのに、やはり行ってしまう人がいるのだ。行き場を失った女の想いが向かう果てを描いた『復讐手帖』をcakesで特別連載!

♦妻の留守中に……他人の家庭を蹂躙する悦楽

【 夫はもう決して言ってくれない、してくれないことに燃える 】
結婚して20年、高校生の双子をもつカヨさん(47歳)が、パート先の男性と不倫関係に陥ったのは4年前。相手は8歳年下で、小学生の子がいる。
「つきあい始めて1年ほどたった頃、夏休みに妻と子どもが妻の実家に帰るから遊びに来ないかと誘われたんです。ホテル代も大変なのはわかっていたし、彼の自宅で朝から夕方までのんびり過ごすのも楽しそうだと思い、つい行ってしまいました」

彼の自宅はマンションの2LDK。昼前に行って、彼と一緒にランチを作ったのだという。
「パスタとサラダ、鶏肉料理を作ったんですが、彼はそばで手伝ってくれながら、『カヨは料理がうまいなあ』『こういうものを毎日食べられたらいいなあ』と。食材は彼が買っておいてくれたんですが、奥さん、あまり料理をしないんですって。確かにこっそり冷凍庫を開けたら市販の冷凍ものがたくさんあったし、棚にはカップラーメンなどのインスタントものばかり。『やっぱり食事は体を作るものだから、気をつけないとね』などと奥さんへの皮肉を盛り込みながら、いつもより一生懸命作りました」

もともと料理好きのカヨさん、このときとばかりに腕をふるったそうだ。ランチは彼に大好評、昼間からワインを開けてふたりともほろ酔いとなり、午後はずっといちゃいちゃしながら過ごした。

ここでいつも奥さんと寝ている、と思いながら獣になったように……

「夫婦の寝室でエッチしちゃったんです。イヤだって言ったのに……。ダブルベッドでした。でもしているうちに、ここでふだん彼と奥さんが寝ているのかと思ったら、嫉妬のあまり興奮してしまって。『本当は奥さんのことが大好きなんでしょ、私より好きなんでしょ』『そんなことないよ、おまえがいちばんだよ』なんて叫んだり泣いたりしていたら、いつもより感じちゃって……」

意識が飛び、あとは自分が獣になったような気がしたという。彼も「こんなに乱れたのは初めてだね」と喜んでいた。
ただ、彼女の心にぐさっと刺さるものがなかったわけではない。
「リビングに家族の写真があったり、彼の奥さんの趣味なんでしょうけど、全体的に部屋がピンクなんですよね。カーテンとか置物とか。居心地悪いのに、彼は文句を言わないんだと思ったり。彼は家庭であまり大事にされてないのかなと思いました」

翌日も彼の家に行く約束だったのだが、朝になって彼から「昨夜遅く、突然、妻が帰ってきた」と連絡があった。
この時点で、おそらく妻は夫の浮気を疑っていたのではないだろうか。だから子どもと一緒に実家に数日行く予定だったのに、自分だけ真夜中に帰ってきたのではないか。ただ、カヨさんも彼も、そうはとらえなかったようだ。

カヨさんはハッとした。残った鶏肉料理を冷蔵庫に入れてきたからだ。彼にSNSのメッセージでそう送ると、「あれは僕が夜中に食べたから大丈夫」とのこと。
「ほっとしました。ふだんそれほど料理をしない夫が自分の留守に、ひとりで料理などするはずもない。妻にしてみれば一目瞭然で怪しいとわかりますからね」
とはいえ、自宅に誰かが来たかどうか、妻ならわかるものではないだろうか。いつもと違う皿が出ていたり食器の位置が変わっていたりするだろうから。しかもベッドに他人が寝た形跡は消せないはずだ。彼がどうやってそのあたりをフォローしたのか、カヨさんは知らないという。

そして1か月もしないうちに、今度は妻の父親が倒れたという報せが入り、妻は土日に合わせて子どもを連れて実家へと向かった。

「彼は土日が休みではないので、そのときは行かなかった。それで仕事を早めに切り上げて帰ってくるから土曜の夜、うちに来ないかと誘われたんです。夫に『実は同窓会があって』と言うと、『たまには行ってくれば』との返事。子どもたちは部活やら習いごとやらで土曜の昼間はいないので、夕食だけ夫に頼んで出かけました」
食材を仕入れて彼のところに連絡すると、もう帰宅しているという。彼女はうれしくて小走りで彼の家へ。
「彼が親子丼が大好きだと聞いたので、ご飯を炊いておいてもらって、私は手早く親子丼とポテトサラダ、野菜たくさんの味噌汁を作りました。彼は『こんなにうまい親子丼、食べたことがない』と涙ぐむんです。うちなんて、もう誰も料理を褒めてくれませんから、彼に毎日作ってあげたいとさえ思いました」。

カミソリ、ピアス、Tバック…… 敢えて痕跡を残すというバトル

リビングでいちゃいちゃしていると、彼がカヨさんを寝室まで「お姫さま抱っこ」で運んでくれた。彼に洋服を脱がされ、ベッドに寝かされると背中にとんでもない痛みが走った。
「ぎゃっと叫んで飛び起きると、シーツからカミソリの刃が出ていました。刃が寝ないよう固定してあり、私の血でシーツが赤く染まっていた。『なんでこんなところにカミソリが』と言った彼、私を見て『俺、こんなことしないよ』と。わかってますよね、そんなこと。『奥さんがしたに決まってるじゃない。バレてるのよ、私たちのこと』と言ったら、彼は『まさか』って。男って鈍いですよね。彼は救急車を呼ぼうかと大騒ぎしていましたが、合わせ鏡で見たらそれほど傷は深くなかったので、ガーゼを畳んで押しつけ、テープで貼ってもらいました。それでもエッチしたんですよ、騎乗位で(笑)。さすがに痛みであまり感じませんでしたけど、これでエッチしなかったら奥さんの思う壺だと思って」

彼がシャワーを浴びにいった隙に、寝室にある化粧台の引き出しに、自分のピアスの片方を投げ込んだ。おそらく妻はまた深夜に帰ってくるのではないかと考えたカヨさんは、その日に穿いてきた派手なTバックも別の引き出しに入れた。
「カミソリの仕返しとしてはおとなしいほうじゃないですか」
シーツを洗わなくてはと焦っている彼を尻目に、彼女は傷が痛むからと家を辞した。
「『ごめんね』と彼は申し訳なさそうにしていましたが、私はだんだん腹が立ってきて。まあ、自分たち夫婦のベッドが使われたことで奥さんもアタマにきたとは思うんだけど、それにしてもカミソリはないでしょうと」
マンションの玄関で、リビングの写真で見た女性とばったり会ってしまった。やはり妻は帰宅したのだ。そもそも父親が倒れたという話も嘘だったのかもしれない。あちらも何かを感じたのか急に立ち止まる。だがカヨさんは止まらなかった。
「後ろから、『あの』と声をかけられて。はい? と振り向いたら、『このマンションにお住まいの方ですか』と。『妹夫婦が住んでいるので遊びにきたんですが、何か?』と言うと、『いえ、失礼いたしました』と丁寧に頭を下げて。カミソリを仕込んだ女には見えませんでした。彼女も苦しかったんだろうなと思いましたね。顔がやつれていましたから」他人事のように分析する冷静さが、カヨさんにはある。だが傷は痛んだ。帰り道でケーキを買った。

「帰宅すると子どもたちもまだリビングでテレビを見ていたので、『遅くなってごめんね』とみんなでケーキを食べました。ちょっと彼への気持ちが薄らいでいくのを感じたんですよね、そのとき」

自分にもこんな安定した家庭がある。彼もおそらくそうだろう。背中のズキズキした痛みを感じながら、もう不倫はやめようと決意した。だが、自分の化粧台の引き出しにピアスとTバックを入れられた妻のほうは、戦闘意欲が増してしまったようだ。

「週明け、パートに行くと彼が手に包帯を巻き、青い顔をして近づいてきたんです。相当、奥さんに痛めつけられたようですね。『ひどいじゃないか、ピアスだの下着だの』と彼に責められ、『じゃあ、カミソリはひどくないの? 私、結局、病院で4針も縫ったのよ』と言ってやりました。嘘だけど。そうしたら彼、『申し訳ない』と素直に謝ってくれて。彼は妻から包丁を突きつけられ、もみ合いになったあげく手首のちょっと上あたりを切られたそうです。『もう無理ね、続けられない』と言うと、『いや、ちょっと待ってほしい』と。この期に及んでも別れたくないのかと思うと、ちょっとうれしかったのは正直なところです」

ただ、これ以上続けると、お互いに傷つけ合うだけだとカヨさんは思っていた。それに妻は夫の不倫相手をまだ特定はできていない様子。それなら今のうちに撤退したほうがいいという計算も働いていた。

「前から携帯電話には気をつけてと彼に言っていたから、SNSなどのやりとりも一応削除はしていたようです。最後は私も保身に走りました」

だが、カヨさんは甘かった。妻は相手がカヨさんであることを突きとめたのだ。職場に怪文書が届けられた。カヨさんと彼が、互いに家庭がありながらつきあっているという内容だ。

「そこに、私の子どもたちの名前まで書いてあったんです。『無事でいられると思うな』とまであった。上司に呼ばれてその文書を見せられたときは、さすがにぞっとしました。すぐにパートは辞めましたが、なんとも悔しくてたまらない。彼が辞めずにいることも、彼の奥さんがほくそえんでいるんだろうと想像することも苛立だたしい。パートと社員だから? 女と男だから? 平等じゃないですよね」

最後に私物を取りに会社に行ったとき、カヨコさんは誰もいないのを見計らって、椅子の背にかかっていた彼の上着のポケットにまたピアスを入れた。彼が見つけるのか妻が見つけるのかわからないが、最後の彼女の仕返しだった。

「別れてから2年ちょっとたつんですが、毎年、私の誕生日に彼からメールがくるんです。どういうつもりなのかわからないけど。今年は、おめでとうの他に『また1年たちました。いつか会えると信じています』と書いてありました。以前のような気持ちで愛することはもうないと思うんですが、彼はそうじゃないんですかねえ。あるいは家庭がよほどうまくいっていないとか。考えてもしかたがないけど」

忘れられたくないという気持ちが彼にはあるのかもしれない。あるいは、いつまでたっても女は自分に惚れているとでも思っているのだろうか。そういう男性も傾向として少なくはないのだが。

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復讐手帖

亀山早苗

別れた男、不倫相手、夫……。男の裏切り、心変わり、嘘の塗り重ねに、行き場を失った女性たちの想いが”復讐”という形で狂気に変わっていく。独身男女の愛がこじれたとき、夫の不倫を知ってしまったとき、自分自身の不倫の末……など、実際にあった復...もっと読む

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