実体験なきミソジニーに振り回されていませんか?

性的なコンプレックスを抱えこんでいると、「なんでこんな容姿や性格に生まれてしまったのだろう」という、自責思考に囚われてしまいがちだと坂爪さんは言います。それはときに他責思考へと変化することも……。女性差別極まりないつぶやきや書き込みが蔓延している今日ですが、実体の無い誰かや何かを叩くことで精神の安定をはかってはいませんか? 『孤独とセックス』ではモンスター化したコンプレックスに迫ります!

●包茎を「モンスター」にしたのは誰だ?

性的なコンプレックスに囚われている男子は、往々にして「コンプレックスを克服できないのは、自分が悪いからだ」「なんでこんな容姿や性格に生まれてしまったのだろう」といった自責思考に囚われてしまいがちです。

しかし、フィルターバブルの中に閉じこもって自分の見たい情報や画像、動画だけを摂取し続けるという行為の積み重ねが一定の閾値を超えてしまうと、そうした自責思考は、「悪いのは自分じゃない」「自分を受け入れてくれない女性、そして女性を不当に優遇する社会が悪い」という他責思考へと変化します。

孤独の中で性的なコンプレックスをこじらせると、実体験なきミソジニー(女性嫌悪・女性蔑視)の泥沼にはまってしまいます。

ツイッターやウェブニュースのコメント欄、匿名掲示板からまとめサイトまで、ネット上のあらゆる場面に、ミソジニーに囚われた男性たちによる、女性差別極まりないつぶやきや書き込みが蔓延しています。彼らは性経験のある女性を「中古」「肉便器」、専業主婦を「寄生虫」と呼び、日本は女性だけが優遇され、男性が不当に虐げられている「女尊男卑」社会であることを訴えています。

こうしたミソジニーは伝染します。最初は見ているだけの傍観者だったはずが、気がつけば、女性一般に対するヘイトスピーチまがいの投稿やつぶやきを繰り返す当事者になってしまうこともあります。実体の無いコンプレックスに振り回された挙句、同じく実体の無い誰かや何かを叩くことで精神の安定を保とうとする。完全な独り相撲です。

自分がモテない理由を「包茎だから」とコンプレックスのせいにできれば、あるいは女性や社会のせいにできれば、行動をしないための言い訳になります。

「包茎は医学的にも統計的にもコンプレックスになりようがない」という科学的事実を直視してしまうと、異性にモテないことは「包茎のせい」でも「女性や社会のせい」でもなく、他でもない「自分自身のせい」になってしまう。

この事実に向き合うことに耐えられない人は、架空のコンプレックスや攻撃対象を作り上げて、「自分がモテないのは、こいつのせいだ」と、それに全ての責任を擦り付けることによって、精神の安定を保とうとする。

つまり、本来であればコンプレックスになるはずがない包茎を、かくも巨大なモンスターに変身させてしまったのは、男性誌の巻末広告でもなければ美容外科業界の陰謀でもありません。他でもない、あなた自身です。

●コミュニケーションスキルは、「事前に一人で磨くもの」ではない

それでは、自らの手でモンスター化させてしまったコンプレックスを倒して、他者や社会と再びつながるためには、どうすればいいのでしょうか?

結論から言えば、モンスター化したコンプレックスを倒すことのできる唯一の武器は、実体験です。

ネットやSNSのタイムライン上に流れている情報は、全て二次情報=自分以外の誰かによって発信・加工・編集された中古の情報にすぎません。情報の非対称性という壁を破壊することができるのは、自ら経験した実体験に基づく一次情報の力だけです。

すなわち、コンプレックスから抜け出すためには、包茎手術を受けるのではなく、包茎のままの状態で女性とセックスすること。そして女性が包茎のことなど全く気にしていないということを文字通り肌で感じることです。

コンプレックスを抱えている人は、どうしても「目の前のコンプレックスを解消してから」と考えてしまい、現実世界で実体験を積むことになかなか踏み出せません。

孤独だった高校時代、私も「まずコミュニケーションスキルを磨かなければ、異性との恋愛やセックスは実現できないはずだ」という思い込みに囚われていました。

当時も今も、若者向けのメディアの中では、右も左も「モテたければ、まずコミュニケーション・スキルを磨け」「コミュニケーションスキルが無ければ、異性と付き合う資格は無い」の大合唱です。

しかしコミュニケーションスキルは、「事前に一人で磨くもの」ではなく、「チームプレイの過程で学ぶもの」です。コミュニケーションは他者との会話のキャッチボールです。そもそも相手がいなければ、何らかの集団に所属していなければ、スキルを磨くこと自体ができません。

野球でたとえると、遠くまでボールを投げられる人、近距離の打球を確実に処理できる人、ベースカバーに入るのがうまい人など、それぞれが個性や特技を活かしたポジションに着き、各々の役割をこなせば、試合(=会話)を盛り上げることができる。

つまり、万人の心をつかむお笑い芸人や政治家のような話術を身につける必要は全くなく、あくまで所属している集団やチームの中で、自分なりの役割、自分ができる範囲の役割を果たすことができれば、それで必要十分なのです。

コンプレックスを抱えている男子は「全てのポジションを守ることのできる万能選手にならなければ、恋愛やセックスに参加する資格はない」と思い込み、チームに入ること自体を拒んでしまいがちですが、それは単なる思い違いにすぎません。

●アドバンテージを自覚する

コミュニケーションスキルは、「事前に一人で磨くもの」ではなく「チームプレイの過程で学ぶもの」という知識を頭で理解したとしましょう。

しかし、実体験に踏み出すためには、それだけでは不十分です。理解と実践の間に横たわる「死の谷」を越えるための動機を錬成することが必要になります。

「そんな動機なんて、一体どこからひねり出せばいいんだ」と思われるかもしれません。しかし、動機を錬成するための材料は、既にあなたの手の中にあります。

そう、孤独の中で性にまつわるコンプレックスを抱え、日々悶々としながら生きているという事実そのものが、動機を錬成するための大きなアドバンテージになります。

恋愛やセックスに対する動機は、孤独の中でコンプレックスに苛さいなまれる過程で育まれます。

欲望や憧れの生成過程には、「欲しいけれど、手に入れられない期間」が必要不可欠です。入手までのタイムラグ=熟成期間が無いと、そもそも動機が育たない。

熟成期間を十分に経由せずに、十代の早い時期にネット上でおびただしい量のアダルト動画を閲覧してしまうと、恋愛やセックスへの期待値が大幅に下がってしまいます。スマホさえあればいつでも・どこでも・いくらでも性的な動画が見放題になってしまったことも、期待値の低下に拍車をかけています。

また心身が成熟する前に、不特定多数の相手と性関係を重ねることも、期待値の低下を招きます。JKビジネスで働く10代の少女たちの中には、16〜17歳といった年齢から不特定多数の男性と性交類似行為を重ねた結果、恋愛やセックスに対する幻想が消えてなくなり、男性と金銭を介さずに人間関係を築く動機自体が蒸発してしまった、という人もいます。

コンプレックスは動機の母です。それが巨大なものであればあるほど、熟成期間が長期になればなるほど、コンプレックスをプラスの動機へと転換できた時の効用は大きくなります。

そう考えると、あなたが今置かれている状況は、絶体絶命のピンチではなく、むしろ絶好のチャンスと言えるのではないでしょうか。

●「翻弄される」のではなく「味わう」作法を身につける

性にまつわるコンプレックスは、マイナスの方向にこじらせてしまうと、本人にとって一生消えないトラウマになってしまったり、ミソジニーの泥沼に引きずり込まれる可能性もあります。

一方で、うまくプラスのエネルギーに変換できれば、一生尽きない動機を生み出す源泉になる可能性も秘めています。

私自身の経験を振り返ってみても、新しい「性の公共」をつくるというビジョンを掲げて社会性のある事業を立ち上げたり、セクシュアリティに関する新書を立て続けに刊行できるようになったことには、孤独の中でコンプレックスにまみれて過ごした高校三年間が確実に影響を与えています。

コンプレックスをモンスター化させずに、自らの動機の源泉へと変えることができれば、自分を変えるため、そして社会そのものを変えていくために必要な、無尽蔵のエネルギーを手に入れることができる。

その意味で、思春期において孤独と性にまつわるコンプレックスに悩まされる時期は、あなたの人格形成のためにも、そしてあなたが将来社会で活躍していくためにも必要不可欠な時期だと言えます。

まずは、コンプレックスに翻弄されるのではなく、それらを味わうことから始めてみましょう。コンプレックスから生きる動機を錬成するためのコツは、そうした作法を身につけた先に、おぼろげながら見えてくるはずです。錬成のためのコツは、次章以降でも詳しく紹介していきます。

たとえるならば、孤独は「動機の鍛冶場」です。身を焼くようなコンプレックスの炎の中で錬成された動機は、情報の非対称性という壁を撃ち抜き、「セックスへの自由」を手に入れるための「鋼鉄の弾丸」になります。足元の孤独を固め、コンプレックスを味わう作法を身につけることで、弾丸の威力を研ぎ澄ますことができるはずです。

結論。劣等感の業火に身を焼き尽くされてしまう前に、それらを「鋼鉄の弾丸」に変えて銃口に詰め、目の前の壁を撃ち抜け!

包茎を「モンスター」にしたのは誰だ? 孤独と性をめぐるサバイバル・ガイド!

この連載について

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孤独と性をめぐる11のレッスン

坂爪真吾

高校の三年間、友だちは一人もできなかったし、恋人も作れなかった。恋愛もセックスも何一つできなかった。一発逆転を賭けて東大を目指すも、センター試験は全教科白紙で提出。すべてから逃げ出した坂爪少年は「卒業式が終わったら、自殺しよう」と決意...もっと読む

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コメント

AngelTouchPlus 心が囚われている人に届いて欲しい https://t.co/YlbbCQBiSC 5日前 replyretweetfavorite

kyohei240k うーん、コミュニケーションの 実践に乏しいから失敗する→実践してこなかったのは自分が悪い、になってしまうんだけどな。 5日前 replyretweetfavorite

ikb 『孤独は「動機の鍛冶場」です。身を焼くようなコンプレックスの炎の中で錬成された動機は、情報の非対称性という壁を撃ち抜き、「… https://t.co/6s03RiqCD8 5日前 replyretweetfavorite