失恋の気晴らしにPairsでマッチした男が、一言でまとめると最低だった

失恋の気晴らしにマッチングアプリを使ってみた大学院生のアキ(25)。半信半疑でアプリを登録してみたシステムエンジニアのヤマモト(30)。頻繁なメッセージのやり取り経て、デートを試みた2人でしたがーー。
LINEで、SNSで、出会い系アプリで。いま恋のリアルは、スマホの向こう側に広がっています。かつてなく加速してからまりつづける男女の運命は、どこに向かうのでしょうか。

#アキ #25歳 #文系大学院生 #すでに後悔してるし

 失恋した気晴らしにPairsでマッチングした五歳年上のヤマモトさんは、実際会ってみると少しもタイプじゃなかった。

 ニット帽に黒縁眼鏡、オレンジのタータンチェックのシャツのアイテムは、プロフィールの写真と同じでも、カメラの前でカッコつけた自撮りと比べるとまったくの別人で、おまけにアプリのメッセージやLINEでのやり取りと違って会話も弾まず、とにかく一言でまとめると最低だった。

「アキちゃん、あんまり焦らずに食べていいからね」

「すいません」

 私は口に運びかけたパンケーキを思わず止めた。

「あ、でも初対面だからって遠慮しないで。俺、たくさん食べる子が好きだからさ」

「ありがとうございます」

 あんたの趣味なんてどうでもいいんだって。
 精一杯の愛想笑いを返すと、ヤマモトさんはフォークでパンケーキを大ざっぱに切り崩してかぶりついた。まわりにいるカップルの彼氏は、だれもそんな食べ方なんてしてないのに。

 彼が一口頬張るたびに、眼鏡の奥の目がくしゃっと潰れる。その様子がなにかの動物に似ていることに気づいたけど、なんだったか思い出せない。


 ヤマモトさんは秋田県出身で、血液型はB型。趣味は読書と映画鑑賞で、デートの支払いは割り勘希望。都内の会社でシステムエンジニアをしていて、職場に女性が少なくて出会いがないからという理由でマッチングアプリに登録したのだと説明した。

 メッセージ付きのいいね!をもらったときは特に興味なかったけど、試しにやり取りを始めると意外に聞き上手で、バイト先の愚痴でも友達の悪口でも、私が話したいことはなんでも聞いてくれた。それならきっと悪い人じゃないだろうと、試しにデートすることにした。

 でも、待ち合わせの横浜駅東口で声をかけられたときは、やっぱり来るべきではなかったと一瞬で後悔した。
 話し相手になるならだれでもいいと思っていたけど、実際に会ってみると、どうして見ず知らずのこの人に悩みを打ち明けていたのか、わからなくなった。

 だから、今は時間をかけて残りのカフェラテをすすり、このまま何事もなく帰るための言い訳を必死で探していた。

「バイトは最近どうなの、例のリーダーとうまくやれてる?」

「まあ、それなりに」

 ヤマモトさんがなにもかも知ったふうな口をきくので、私は思わず反抗的な言い方をした。

「この前も夜中に落ちこんでたし、俺も心配したんだよ」

 彼が食べながらしゃべるたびに、口の中から変な音が聞こえて、私の食欲はどんどん減退していった。
 これでおごってくれるわけじゃないんだから、今日は本当にツイてない。

 唯一楽しみだったパンケーキは、もうすっかり冷めてしまっていた。

#ヤマモト #30歳 #システムエンジニア #女は黙って話を聞いてやればいい

 辛抱強くメッセージを交換すること約一ヶ月半。向かいに座ったアキちゃんは、間違いなく友達が少ないタイプだ。長崎県出身、A型。文系の大学院に通っていて、社会人経験はまだない。

 黒のタートルネックにシャツを重ねた学生らしいカジュアルな格好に、髪はゴムで束ねただけで化粧も薄い。少し痩せすぎているけれど、今までPairsで会った四人と比べると一番好みのタイプだった。

 だけど、会って一時間以上経っても、彼女はメッセージと違って自分の話を少しもしようとしない。

 最後に女の子とまともに付き合ったのは、二十歳のときだった。
 相手は同じ大学の二つ年下の子で、映画サークルで知り合った。でも五ヶ月の交際期間で最後の二ヶ月は数えるほどしか会えず、彼女の気持ちがまるでわからないまま、ろくにセックスもできずに別れてしまった。

 それ以来は女の子と無縁の生活だったけれど、職場の先輩がマッチングアプリで彼女ができたと聞いて、半信半疑でPairsに登録した。何度か失敗してわかったのは、いかに本人が望むように話させてあげて、タイミングよく相槌を送るかが重要で、それさえ間違えなければ女の子と仲良くなるのは意外と難しくない、と言うことだった。

 アキちゃんは切り分けたパンケーキを食べながら、こちらの様子をうかがっている。アプリでは会話も弾んだけど、実際に会ってから俺にどう思われているかが心配なんだろう。
 だけど、残念ながら二回目のデートに誘うかどうかは、この後の質問ですべて決めることにしていた。

「ところで、休日はなにをしているの?」

「本を読んだり、映画を観たり」

 俺が尋ねると、アキちゃんは余ったパンケーキをフォークで突く。

「そうなんだ。どんな作品が好きなの?」

 アプリで出会った女を見極める最後の質問は、いつもこの一問だった。

「『ダンサー・イン・ザ・ダーク』」

 それで答えは決まりだった。

「ビョークが好きなの?」

「まあまあ。好きと言えば好き」

 今回は間違いなくナシだった。
 そんなメンヘラしか観ない映画が好きな女と付き合う気になんてならない。

 コーヒーを飲み干して椅子の背にもたれかかると、彼女は俺から目を逸らした。これで興味がないアピールは完璧だ。あとは、適当な理由をつけて帰ってしまえばいい。

「それと『第三の男』かな」

 ようやくパンケーキを食べ終えると、彼女はなにか考えた末に別の答えを呟いた。

 俺はそれを聞くなり、思わずテーブルに身を乗り出してしまった。

「え、そんなマニアックな作品、観たことあるの?」

 今度はまっすぐ俺と目を合わせ、さっきまでの大人しすぎる態度が嘘みたいに、アキちゃんは愛想よく微笑んでみせた。

 そのいたずらっぽい表情は、あのとき別れてしまった年下の彼女にそっくりだった。

#アキ #本当は映画全然興味ない #好みじゃない男を落とすって本当に簡単

 好きな映画を聞かれたから、二作品だけ答えたらヤマモトさんの態度が変わった。

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#ワン・モア・ライク! #ワン・モア・チャンス? #マッチングアプリで恋をして

大塚美和

LINEで、SNSで、出会い系アプリで。いま恋のリアルは、スマホの向こう側に広がっています。かつてなく加速してからまりつづける男女の運命は、どこに向かうのでしょうか。

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コメント

gin_and_tanic ショートストーリーのただのセリフとわかっちゃいるが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を「メンヘラしか観ない映画」とは僻目も甚だしい。/ https://t.co/wcbiiDdX8Y 9ヶ月前 replyretweetfavorite

taniryu https://t.co/l53H40bCPV 本当にこんなゲスい体験ばっかり小説にしてpairsに何の得があるのか...笑 9ヶ月前 replyretweetfavorite