万能薬か毒薬か ステロイド
ステロイドは一般に副腎皮質ホルモンのことで、左右の腎臓の上にある「副腎」という消しゴム大ほどの臓器から分泌されます。副腎は外側の皮質と内側の髄質に分かれ、ステロイドは皮質から、髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。
ステロイドは、アレルギー、各種の炎症、救急蘇生、がん、膠原病や自己免疫疾患、喘息、多くの皮膚病、リウマチなど、あらゆる病気の治療に使われ、一種の万能薬の趣があります。
しかし、その分、副作用も強く、糖尿病、胃潰瘍、胃穿孔、膵炎、感染症の悪化、骨粗鬆症、特発性大腿骨頭壊死、緑内障、うつ病、不妊などが起こります。
病気ではありませんが、ステロイドを長期服用すると、顔が丸くなる「満月様顔貌(ム ーン・フエイス)」、肩がウシのように盛り上がる「野牛肩(バツファロー・ハンプ)」、腹部に蛇のような皮下出血が起きる「線条紫斑」、中心性肥満(手足は細いが体は太い)、筋力低下、生理不順やニキビの増加なども起こります。
こう書くと、ステロイドを服用中の人や、過去に使ったことのある人は不安になるかもしれませんが、医師の指示に従って使えば、一応、心配はありません。
ドーピングの対象となる筋肉増強剤も、ステロイドの一種です。1988年のソウルオリンピックの陸上100m決勝で世界新記録を出したベン・ジョンソンは、レース終了後のテストでステロイド反応が陽性となり、金メダルを剥奪されました。
ステロイドには活力を高める効果もあり、末期がんの患者に投与すると、一時的に食欲が回復したり、元気になったりします。残念ながら、すべての患者に有効ではありませんし、効果も長続きはしません。知人の医師は、アレルギーの治療に自分でステロイドを処方し、のんだところ猛烈に気分が高揚して、恐いものなしの心境になったと話していました。そんな不思議な効果もある薬ですが、先に述べた副作用のほか、急にやめると「離脱症候群」といって、ショックに陥ったり、リバウンドで元の症状が悪化したりするので、やはり安易に使うべきではありません。
副腎髄質から分泌されるアドレナリンとノルアドレナリンは、ともに交感神経を興奮させるホルモンで、血圧上昇、心拍数増加、瞳孔散大、血糖上昇などの作用があります。いわゆる「闘争か逃走か(fight or flight)」のときに出るホルモンです。かわぐちかいじ氏の劇画『沈黙の艦隊』では、潜水艦「たつなみ」の艦長・深町洋が、米第七艦隊の攻撃を受けつつ、ぎりぎりの深度で潜航するとき、「口の中がアドレナリンの味がするぜ」という絶妙なセリフを吐きますが、実際のアドレナリンは味がしません。
薄毛の特効薬 男性ホルモン阻害剤
男性ホルモンは精巣から、女性ホルモンは卵巣から分泌されます。
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