矛盾した社会でどう生きるか
日本の女性は、子どもを産むと「罠」にはまってしまいます。
女の子として生まれ、学校に通い、高校・大学を卒業して就職し、恋をして結婚(あるいは同棲)し、DINKS(ダブルインカム・ノーキッズ)の生活をするところまでは、日本は男女平等の社会です。ところが子どもが生まれると、女性を取り巻く環境は大きく変わります。
出産を機に専業主婦になると、ダブルインカムがシングルインカムになったことで家計は逼迫(ひっぱく)します。こうしてはたらかざるを得なくなるのですが、都会では子どもを保育園に入るのは容易ではなく、やっと預かってもらっても送り迎えは母親の役割で、そのうえ熱を出すたびに「お迎えコール」がかかってくるのでパートか非正規の仕事しかできません。
非正規ではじゅうぶんな収入にはなりませんから、夫との「経済格差」は開くばかりです。もっともこれは、「正社員」としてはたらきつづけても同じです。育休後のマミートラックは「残業しなくてもいい仕事」ですから、バリキャリ時代から大きく収入が下がってしまうのです。
これはいわば、答えのない複雑な方程式を解けといわれているようなものです。いきなりそんな問題を突きつけられたら、途方にくれるのも無理はありませんよね。
これが、「罠」の正体です。
スーパーウーマンですら必死
シェリル・サンドバーグはフェイスブックのCOO(最高執行責任者)で、まだ40代ですが(1969年生まれ)、米誌『タイム』が選ぶ「世界の有力な100人」に選ばれるなどビジネスの世界でもっとも成功した女性の一人です。そのサンドバーグは2013年に『LEAN IN (リーン・イン):女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社)という本を出版し、アメリカはもちろん、日本を含む世界じゅうでベストセラーになりました。
「LEAN IN」はスキーのジャンプのときに前に屈み込むことで、「逆風に向かって飛び出そう!」とはたらく女性を勇気づける本です。そこでは、シェリル自身がどれほど仕事と子育ての両立に苦労しているかや、アメリカの一流企業でも見えない女性差別が広く行なわれていることなどが率直に語られ、「男と女が対等に仕事も子育てもできる社会を目指そう!」という熱いメッセージが込められています。
この本から勇気をもらった女性はたくさんいるでしょう。でも逆に、絶望するひともいそうです。
シェリルがIT業界で成功したのは、ものすごく優秀だからです(ハーバード大学経済学部を首席で卒業しています)。フェイスブックの株式を含めれば、総資産は1000億円を超えるともいわれています。それに加えてアメリカは、ジェンダーギャップ指数45位と、日本(111位)に比べてはるかに「女性が活躍できる社会」なのです。
そんな「男女平等」のアメリカで大富豪になったスーパーウーマンですら、仕事と子育ての両立に必死になっているのだとしたら、この日本でいったいだれがそんなことをできるのでしょう……。
罠にはまらないためにどうするか
だったらどうすればいいの? この問いに対するもっともシンプルな回答は、「子どもを産まなければいい」でしょう。
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