NASAに飾られた一枚の「塗り絵」

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!人気コミック『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕がひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕の書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。

僕が勤めるNASAジェット推進研究所(JPL)は、年中快晴のロサンゼルス郊外の、アロヨ・セコという普段はほぼ枯れている川が山から平野に流れ出す場所にある。空の青さ相応に、所内の文化もカジュアルで自由だ。六千人の職員のうちネクタイを締める人はほぼおらず、 マネージャーでさえTシャツと短パンで出勤することも珍しくない。僕もたまに下駄で出勤する。

そんなJPLの186号棟のオフィスの壁に、一枚の「ぬり絵」が額に入れられて大切に飾られている。紙を赤や茶色やピンクのパステルで塗りつぶしただけの手描きの絵だ。近づいてみると、紙には無数の数字がタイプされている。まるでイタズラ好きの子供が、父親のカバンから盗み出したデータシートに落書きしたようだ。

なぜこんなぬり絵がNASAで大事に保存されているのか?

実はこれは、史上初の「デジタル画像」である。しかし、なぜ手書きのパステル画なのに「デジタル」なのだろうか?

そしてこの絵には、火星の素顔を初めて見た人類の様々な感情がこもっている。破裂せんばかりの期待。抑えられない興奮。そして、「あの子はやっぱり僕に気がないんだ」と思い込んだ若者のような落胆と孤独が。


左:NASA ジェット推進研究所の壁に飾られている「ぬり絵」 Credit: NASA-Caltech/JPL/Dan Goods
右:「塗り絵」の拡大画像(撮影:筆者)

火星探査の話を始める前に、いかにして惑星へ航海するかについて、少しお話ししよう。

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宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

小野雅裕

銀河系には約1000億個もの惑星が存在すると言われています。そのうち人類が歩いた惑星は地球のただひとつ。無人探査機が近くを通り過ぎただけのものを含めても、8個しかありません。人類の宇宙への旅は、まだ始まったばかりなのです…。 NASA...もっと読む

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コメント

HanShotFirst_jp #technology #astronomy #stories 6ヶ月前 replyretweetfavorite

tipi012011 何故ソ連が失敗したのかが気になる。 6ヶ月前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 6ヶ月前 replyretweetfavorite

takaakishigenob 地球から火星へ航海できるタイミングは二年二ヶ月に一度しかない。 6ヶ月前 replyretweetfavorite