殺しの会社の「最強のコンテンツ」

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」
女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強のマーケティング技巧」を持つ西城に弟子入りすることで解決しようとする七海。今話題の書店経営者が初めて書く新しいマーケティング&エンタメ小説、第18回。

「その上で、知り合いの鍛冶屋に聞いてみたのさ」

そう言って、西城は一つ目の茶封筒から資料を取り出してみせる。

「鍛冶屋?」

「ガン・スミスだよ」

それなら、聞いたことがある。プロの殺し屋の銃を手入れする職工のことだ。銃工、あるいは、ガン・スミスと呼ばれる職人が、まるで入墨の職人のように、裏の世界には存在する。

「聞いてみたって、何をですか?」

「最近、銃を手入れに出した人はいないかってね。それが、このリストだよ」

資料の中から、一枚の紙を引き抜く。

なるほど、と七海は頷く。西城の言わんとしていることの意味がわかって、背筋あたりが少し寒くなった。繊細な精度を必要とする殺し屋なら、実行する前に、必ず、腕利きのガン・スミスに銃の照準の調整を依頼する。ピアニストが本番前に調律師に調律を依頼するのと同じことだ。プロであればあるほど、その作業を欠かさない。

つまり、絶対にプロが通る道に、西城は先回りして情報の網を張っていることになる。

それで、と西城は七海の前に一本の指を立てる。

「一人。たった一人だけ、このリストの中から候補が浮かび上がってきたんだよ。もちろん、その男の本当の名前はわからない。けれども、闇の世界での通称は知ることができた」

「その通称って……」

恐る恐る、七海は聞いてみる。この業界で商売をしていると、様々な名前を聞く。その通称が多くの人に知られているということは、数々の伝説的な殺しを成功させているということだ。そして、未だに現役として活動しているということでもある。

「サイレンス・ヘル」

西城は神妙な面持ちで、まるで忌み名を告げるかのように言う。

サイレンス・ヘル

七海も聞いたことがある名前だった。

「本当に、存在するんですね……」

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殺し屋のマーケティング

三浦崇典

「受注数世界一の、殺しの会社を創りたいんです」 女子大生、桐生七海は本気だった。「営業」ができない、「広告」も打てない、「PR」なんてもってのほか、世界一売りづらい「殺し」をどう売るか――、そんな無理難題を「最強...もっと読む

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