現実が夢に影響するように、夢も現実に影響する

【未来の夢⑪】
気がつくと、扉の赤い風船の看板に書かれた「ラムレス」という文字。その扉を開くと、夢の管理人だと言う女性が立っていた。夢工場というその場所では、夢を修正することができるという。管理人が話す「明晰夢」が持つ力とは――
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>


イラスト:堀越ジェシーありさ

 少し年上くらいかな、と健人は思った。服は全身部屋の色と同じ薄いピンク色をしていて看護師のようでもあるが、その形はまるで宇宙服のようにごわごわしている。何か特殊な素材で作られたものなのだろう。健人は勇気を出して返事をした。

「……あの」

 最初に出てきた言葉の響きは、自分の言葉なのに遠い場所から聞こえるようだった。

「えっと、ここはどこ?」

 健人が独り言のように言うと、少し間を空けて彼女は答えた。

「ようこそ、夢工場ラムレスへ。ここは夢の要素が作られ、送られる場所。私は、夢の管理人です」

 管理人と言った女性は、ゆっくりと機械的な口調で答えた。

「夢工場? 管理人? ここは夢の中ですよね?」

 口にした疑問の百倍以上の疑問が、健人の頭の中で湧き上がってくる。

「まず、そこの扉を閉めてもらえますか?」

 健人は自分が入ってきた扉の方を振り返った。入って来た時の扉と同じく、青い色の扉に赤い風船のプレートが、目の高さの少し下にかけられている。健人はノブに手をかけ扉を閉めた。そしてその瞬間。

「わっ!」

 驚いて健人は声を出した。扉を閉めた途端に、まるで別の世界に来たようだった。
 辺りを見回して、自分が同じ場所にいることを確認する。
 景色は変わらないが、さっきまでの夢の中の靄がかかったような空気とは違う。
 まるで目が覚めている時と同じように、はっきりと五感の働きを感じ取れるようになっているのだ。
 自分がどうやってここに来たのかも、ちゃんと思い出せる。

「その扉を閉めると、もう夢の中ではありません。夢工場にどのようなご要件でしょうか、健人さん」

 管理人は静かに言った。

 これは夢だ、と思うには思考がはっきりしすぎている。
 しかしこれを現実だ、と思うには状況があまりにも現実離れしすぎている。

「もしかして、夢の配達人ですか?」

 健人は葵との会話を思い出して言ったが、すぐに自分で可笑しなことを言っていると思った。
 管理人にとっても意外な言葉だったらしく、彼女は微笑みながら、初めて聞きました、と言った。
 健人は自分で顔が赤くなるのを感じた。

「わからないことがたくさんあるかと思いますが、話を先に聞かせてください。あ、どうぞ、そちらの椅子に座ってくださいね」

 管理人は柔らかい物腰で言いながら、手のひらで健人をベッドの手前にある椅子に促した。

「あ、ありがとうございます」

 健人が座ると、管理人もベッドの向こう側の椅子に座った。
 左手に小さなメモ帳と冊子のようなものを重ねて持っている。一瞬、部屋に沈黙が訪れた。

「えっと」

 何から話せばいいのかわからなくなってしまう。

「ここは……夢工場って言いましたか? もしここが友達の言ってた場所だとするなら……願い事を叶えてくれるって聞いたんですけど」

「願い事を叶えてくれる、というのは正確には違いますが、願い通りの夢を見ることはできます」

 歯切れ良い口調で管理人は言った。

「俺、結構手探りな感じでここに来ちゃって、その、あんまりここのこと知らないんです。夢じゃないって言われてもまだピンとこないですし」

「大抵の人は健人さんと同様に、手探りのままやってきます。さっき健人さんが通ってきたのは夢と夢工場を繋ぐ唯一の通路です。夢には必ず扉があり、全ての夢がここへ繋がっています。赤い風船が、私のサインです」

 なぜか、少しだけ誇らしそうに管理人は言った。

「じゃあ誰でもここに来れるってことですか?」

「基本的にはそうです。全ての夢がここと繋がっています。ですが、扉は誰にでも見つけられるものではありません。見つけようとした人には見つけられますが、そうでない人には一生見つけられないでしょう。それを必要とする人に、開かれることもありますが……」

「見つけようとするって、そんなの夢の中で思い通りにいかないんじゃ……」

 健人はそこで気がついた。

「そうか、明晰夢! 明晰夢の中なら思い通りに動ける。その中で探せば見つけられる人もいるってことですね」

「明晰夢、そうですね。夢の中で自由に動ける人、そして健人さんのように何か理由がある人しか来ることができません」

「あの、さっきからどうして俺の名前を……」

 健人は自分の名前を呼ばれていることに気がついた。

「見ていたからです」

 当たり前のように管理人は言った。

「夢を見ている人は、管理者である私たちに監視されています」<つづく>

【次回は…】管理人によると、自分が見ていた夢は〝予知夢(よちむ)〟だという。現実に夢の悲劇を起こさないためには夢の修正をする必要があるというのだ。そのために僕は夢の仕組みを教えてもらうことにした……


この連載について

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

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kwb_wvr 新年度が始まりましたね!🌸 早速、ライブ直前に確認したセットリストに、全く知らない曲が入っているという夢を見ました!めっちゃ怖いです。 今回は夢工場の管理人が登場します✨ https://t.co/ep7xtEU1yI 2年以上前 replyretweetfavorite