彼女との幸せな火曜日が怖くなっていた

【未来の夢⑨】
自分の夢の正体が気になり、ネットでその夢について詳しく調べた。夢を見ている時にそれが「夢」だと気づける夢を「明晰夢」というらしい。その不思議な夢についてさらに調べていくうちに、彼女の言っていた「願いを叶えてくれる夢」についての書き込みを見つける。そこに書かれていたのはーー
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>


 イラスト:堀越ジェシーありさ

「ああ、うん、全然ひどくないから大丈夫だよ。う、うつすと悪いしな」

 口実が何であれ、葵が家に来てくれるのは嬉しいことだが、今日の夜だけは葵に外出して欲しくなかった。ついさっき夢で見た景色が頭の中でちらつく。

「葵、今日学校終わったら、暗くなる前にまっすぐ家に帰ってくれないか」

「え、うん、別に予定もないけど、なんで?」

「とにかく、今日の夜は絶対に家から出ないでくれ。約束だからな!」

「う、うん。いいけど」

 気圧されるように葵は承諾した。

「また説明するから。ごめん」

「うん。健人もお大事にね」

 心配してくれているらしいが、心配しているのはこちらである。
 近くにいたいが、近くにいることが正解なのかもわからない。
 あの光景を見ている自分が現実にいなければ、あの出来事は起こらないのではないだろうか。
 確証はないが、健人はそんな気がしていた。

 念の為にその夜、「ちゃんと家にいる?」とメールを送った。
 すると「今家でテレビ見てるよ。もうすぐ寝る。健人も早く寝なよ!」と返事をくれた。
 どうやら無事のようである。

 次の日の朝も、起きてすぐに葵に電話をしてみた。

「あれ、健人おはよー。どしたの?」

 学校は午後からのはずだが、葵はちゃっかり朝から起きていた。

「おはよう。今日は午後からだっけ?」

「そうだよー。健人もでしょ? 珍しく早起きだね。体調良くなった?」

 どうやら昨日の夜は何事もなかったようだ。
 こちらの仮病を心配してくれているようで、少し心が痛んだ。

 何もなかったという安心もあって、夢を見ない他の曜日は学校に行く気持ちになったが、葵のことが気がかりで授業どころではなかった。

「なんか顔色悪いよ。まだ風邪治ってないんじゃないの?」

 同じ授業で会った時に、葵が心配して声をかけてくれた。

「大丈夫、元気だよ。それより、最近なんか変わったことなかった?」

「私はいつも通りだけど……。健人、ちゃんと治るまでゆっくり休みなよ。来週からまた練習もあるし」

 練習がある本来楽しみであったはずの火曜日がやってくるのが、今は少し怖くなっていることに気づいた。

 毎日葵のことが気がかりではあったが、健人は自分で夢というものについて調べてみようと思った。
 様々な専門書のある大学の図書館に行ったが、夢についてまとめた資料はなかなか見つからなかった。
 諦めてネットを検索していると、こちらは夢に関する記事が幾つも見つかった。
 その記事によると、健人が見たような夢の中で夢だと気がつく夢には「明晰夢」という名前があるらしい。
 経験したことのない人も多くいる珍しい体験だそうだが、上手くいけば思い通りの夢を見ることもできる、不思議な夢のようだ。そのメカニズムや見るための確実な方法はわかっていないが、練習して明晰夢を見ることができるようになるケースもあると書いてあった。

 検索を続けていくと、ある掲示板に辿り着いた。
 そこでは明晰夢の経験がある人や、その見方を知りたくて質問している人が書き込んでいるようだった。
 中には葵と同じく、願いを叶えられる夢についての書き込みもあった。もしかしたら葵もこれを見たのかもしれない。

 健人はもう少しキーワードを絞り、その不思議な夢について検索を続けた。
 すると、別の掲示板でも、願いを叶えてもらえる夢についての書き込みがあった。

 どうやら、同じ経験をしている人が何人かいるみたいだった。

 時間をかけて様々な書き込みを読んでいくと、その夢の情報には共通して「扉」というキーワードが付随していた。

 夢の中で扉が出てきて、その先へ歩いていくと別の世界へ辿り着けるという趣旨の内容だ。
 そしてその扉は、人生で一度きりしか開くことができないらしい。
 ただのネットの書き込みなので信憑性は定かではないが、複数の人が書き込んでいることも確かだ。
 こんなオカルトなことを調べている自分が少し可笑しくもなったが、自分に、そして葵の身に何かが起こっている今、こうして情報を集めずにはいられなかった。

 一週間、色んなキーワードで時間をかけて検索したが、結局それ以上の情報は見つけることができなかった。

 いつもよりも長く感じる一週間を過ごし、迎えた月曜日の夜は、眠りにつくことが怖かった。
 しかし一方で、夢を見ることができるのはこの夜だけであるというこの状況に、少し賭けてみたいという気持ちもあった。

 もしも葵と出会っていなかったら、と健人は思う。

 冴えない日々を大学に入って変えてくれたのが葵だった。
 友達として、そして異性として、葵のことが大切だと、今ならはっきりとわかる。
 もし好きな人に悪いことが起こらないようにできるなら、その願いを叶えたい。今自分の身に起きていることは確実に非現実的だ。
 だからもし、その非現実ついでに願いを叶える夢が本当に存在するなら、どうかその夢を今夜見られますように。

 決心するような気持ちで、健人はベッドの中で目を閉じた。<つづく>

【次回は…】
「明晰夢」を見続けていると、夢の中に扉が出てきて、その先に行くと別の世界が広がっているという。「その扉を見つけられればあの夢の理由がわかるかも」 そう考えた僕は、その扉に辿り着こうと意識を集中して眠りについた


この連載について

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

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kwb_wvr 何も知らない彼女。彼は色々と考えます。   https://t.co/fCM1f7rMqG #夢工場ラムレス #WEAVER #小説 #明晰夢 9ヶ月前 replyretweetfavorite