超自然の世界に引き込まれたような気味の悪さ

【未来の夢⑧】
その後も彼女が交通事故に遭う夢を頻繁に見るようになった。それは決まって火曜だった。何か不吉な予感を覚え、いつの間にか僕は外に出るのが怖くなっていた
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!


イラスト:堀越ジェシーありさ

 その瞬間、彼女の後ろを、トラックが風のように走り去っていった。

「……なんかあったの?」

 キョトンとしたまま、葵は言った。何も気付いていないようだった。

「今、トラックが」

「トラック?」

「見えなかった?」

「何が?」

「……いやなんでもない」

 健人は、冷や汗が背中を流れていくことを感じながら言った。

「ふふ。じゃあまた明日ね!」

 手を振って葵は踵を返す。
 その背中が見えなくなるまで、健人は葵を見つめていた。

 間違いない。勘違いじゃない。確かに思い出した。夢で見たことが現実で起こるなんて。
 いや、映画じゃあるまいし、馬鹿馬鹿しい、そんなこと信じない。

 そう言い聞かせても、鮮明に残る夢の記憶と現実の景色が重なる。
 街灯の光、トラックの色、そして葵の後ろ姿。
 たまたま焼き鳥屋で夢の話をしてたからそう思っただけなのだろうか。
 いや、それにしては偶然がすぎる。

 自分は葵が交通事故に遭う夢を見た。不吉な夢だった。
 もしあの時自分が声をかけなければ、現実でも葵は、夢と同じことになっていたかもしれない。

 部屋に戻った健人は、それからずっと葵のことを考えていた。狭い一人暮らしの部屋で、なぜかベッドの上で体育座りをしていた。
 部屋の隅には、買ってからまだ数ヶ月のベースが置いてある。気を紛らわせるために少し弾いてみようと思い、ベースを肩にかけた。
 ライブで演奏する予定の曲を弾いてみたが、スタジオでギターを弾く葵の姿が思い浮かんできてすぐにやめた。健人はベースを置いて、膝を抱えてそのままぐったりしていた。
 眠れないまま、気がつけば朝になっていた。

 それから数日の間、朝起きた時に健人は自分が見た夢を注意深く思い出そうとした。
 しかし何も思い出せないだけでなく、おかしな夢を見たような感覚もない。
 良介によると忘れているだけなのかもしれないが、一つも夢を見ないというのも変な感じだ。

 そもそも健人は、こんな非現実的なことは信じない性格だった。
 もし誰かに話しても偶然だと馬鹿にされるだろうと思う。
 考えてみれば、現実と同じ景色が夢に出てくるなんて当たり前のことである。
 スタジオからの帰り道のあの景色を、無意識に覚えていたからあんな夢を見たのかもしれない。

 そんな風に、健人はやはり全ては気のせいだったと思い込もうとしながら時間をやり過ごしていた。

 しかし、そんな考えをあざ笑うように、その夢は、月曜日の夜にまたやってきた。

 健人はアスファルトの上に立っていた。辺りを見回すと、街灯が塀のある道を照らしている。
 ふと、なんでこんなところにいるんだっけ、と思った。

 そして気がつく。

 そうか、これは夢だ。しかも、これは前に見たものと全く同じ夢だ。

 夢だとわかった瞬間、健人は今しなければならないことを思い出した。
 前回よりも意識がはっきりしている気がする。

 走れ!

 そう、次に何が起こるかはわかっている。全く同じ夢なのだから。
 目の前の交差点に灰色のトラックが飛び込んでくる。
 その手前にぼんやり人影が揺れる。

 間に合わない!

 健人は必死に手を伸ばした。



 勢いよく上半身を起こして目が覚めた。

「はぁ、はぁ」

 玉になった汗が首を流れる。確かに、見た。
 同じ夢が繰り返されている。そして今日は火曜日。
 確か前回見たのも同じく火曜日だった。
 同じ曜日に同じ夢を見ることなんてあるのだろうか。
 健人は自分がまるで、超自然の世界の中に引き込まれているような気味の悪さを感じた。

 その日はメンバーに風邪をひいたと連絡をして、大学も練習も休むことにした。
 自分がもし一歩も外に出なければ、夢が現実になるようなこともないのではと思ったからだった。

 朝メールを送ると、葵は心配してすぐに電話をかけてきてくれた。

「健人、風邪ひいたの? 五限終わったらお見舞い行こうか?」<つづく>

【次回は…】
自分の夢の正体が気になり、ネットでその夢について詳しく調べた。夢を見ている時にそれが「夢」だと気づける夢を「明晰夢」というらしい。その不思議な夢についてさらに調べていくうちに、彼女の言っていた「願いを叶えてくれる夢」についての書き込みを見つける。そこに書かれていたのは


この連載について

初回を読む
夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

kwb_wvr 夢で見たことが…現実で起こるなんて…。 どこかで見た、という既視感は全て夢のせいなのでしょうか。 https://t.co/zd6HqLg2hd #夢工場ラムレス #WEAVER #小説 #cakes 2年以上前 replyretweetfavorite