彼女に向かってトラックが猛スピードで突っ込んできた!

【未来の夢⑦】
焼き鳥屋を出てバンドメンバーと別れ、彼女との帰り道。別れ際に手を振り遠ざかっていく彼女に、灰色のトラックが猛スピードで突っ込んできた。必死に助けようと手を伸ばしたのだが……
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>


 イラスト:堀越ジェシーありさ
 楽しい時間はあっという間に過ぎ、外に出る頃には結構遅い時間になっていた。
 久しぶりに四人でたわいもないことを話して、たくさん笑った。

「じゃあまた来週な」

「練習頑張ろうなー」

 浩二と良介は実家暮らしなので、二人で駅のある方へと歩いて行った。健人と葵はここからも途中まで同じ方向だ。

 今日朝に降った雨のせいで、まだじめじめした空気が漂っている。健人は何となく、子どもの頃に行ったお祭りの帰り道を思い出した。季節が夏に近づくと、懐かしい記憶がふと蘇ることがある。今日の日も、いつかそんな思い出の一つになるのだろうか。

 ふと、楽しいな、と健人は思った。今までこんな風に友達とご飯を食べてゆっくり話せるような、何でもない時間を過ごしたことはなかったかもしれない。これからもこんな日がずっと続けばいい。これはきっと、大学生の特権なのだと思う。

 そして、もうすぐ夏休みがやってくる。大学生の夏休みは長い。人生で四度だけ、宿題のない夏休みが許されていると思うと、とても貴重な時間のような気がする。

 夏はサークルのライブもあるけれど、それとは別に、葵とどこかへ出かけてみたいと思った。この前の楽器屋さんもいいと思う。だけど、どこか時間をかけてもっと遠くへ……。

「健人、なんか考え事? 嬉しそうだね」

 葵がいたずらっぽく言った。色々考えていて無口になってしまっていたらしい。

「あぁ、ごめん。何でもないよ」

 何でもある時のセリフを言いながら、健人は誤魔化した。

「夏休みが始まったら一緒にどこか行けたらいいね」

 なんの躊躇もなく、葵は言ってみせる。

「うん」

 精一杯、平静を装って健人は返事をした。本当は、ドキッと鳴った心臓の音が、外まで聞こえたんじゃないかと思うくらいだった。

「じゃあまたね」

 葵は手を振って遠ざかっていく。
 その、後ろ姿。どこかで見たような……。
 とっさに夢で見た景色がフラッシュバックする。
 今の今まで、記憶の底にあったものが浮き上がってくる。
 アスファルト、街灯の光、塀のある道。

「葵!」

 健人は衝動的に呼び止めた。

「ん?」

 屈託のない表情で葵は振り返る。
 その向こう側で、夢で見たのと同じ、灰色のトラックが近づいてくる。

「危ない!」

 健人は走り出した。トラックは猛スピードで葵に迫っている。

「どうしたの?」

 立ち止まって首を傾げている葵に向かって、健人は必死に手を伸ばした。<つづく>

【次回…】
その後も彼女が交通事故に遭う夢を頻繁に見るようになった。それは決まって火曜だった。何か不吉な予感を覚え、いつの間にか僕は外に出るのが怖くなっていた

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夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

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kwb_wvr 第一話の冒頭のシーンがついに…! 彼女の運命は、一体どうなってしまうのか…! そんな回です🍀 https://t.co/tsO3csDkpQ #夢工場ラムレス #WEAVER #小説 2年以上前 replyretweetfavorite