イラスト:堀越ジェシーありさ
楽しい時間はあっという間に過ぎ、外に出る頃には結構遅い時間になっていた。
久しぶりに四人でたわいもないことを話して、たくさん笑った。
「じゃあまた来週な」
「練習頑張ろうなー」
浩二と良介は実家暮らしなので、二人で駅のある方へと歩いて行った。健人と葵はここからも途中まで同じ方向だ。
今日朝に降った雨のせいで、まだじめじめした空気が漂っている。健人は何となく、子どもの頃に行ったお祭りの帰り道を思い出した。季節が夏に近づくと、懐かしい記憶がふと蘇ることがある。今日の日も、いつかそんな思い出の一つになるのだろうか。
ふと、楽しいな、と健人は思った。今までこんな風に友達とご飯を食べてゆっくり話せるような、何でもない時間を過ごしたことはなかったかもしれない。これからもこんな日がずっと続けばいい。これはきっと、大学生の特権なのだと思う。
そして、もうすぐ夏休みがやってくる。大学生の夏休みは長い。人生で四度だけ、宿題のない夏休みが許されていると思うと、とても貴重な時間のような気がする。
夏はサークルのライブもあるけれど、それとは別に、葵とどこかへ出かけてみたいと思った。この前の楽器屋さんもいいと思う。だけど、どこか時間をかけてもっと遠くへ……。
「健人、なんか考え事? 嬉しそうだね」
葵がいたずらっぽく言った。色々考えていて無口になってしまっていたらしい。
「あぁ、ごめん。何でもないよ」
何でもある時のセリフを言いながら、健人は誤魔化した。
「夏休みが始まったら一緒にどこか行けたらいいね」
なんの躊躇もなく、葵は言ってみせる。
「うん」
精一杯、平静を装って健人は返事をした。本当は、ドキッと鳴った心臓の音が、外まで聞こえたんじゃないかと思うくらいだった。
「じゃあまたね」
葵は手を振って遠ざかっていく。
その、後ろ姿。どこかで見たような……。
とっさに夢で見た景色がフラッシュバックする。
今の今まで、記憶の底にあったものが浮き上がってくる。
アスファルト、街灯の光、塀のある道。
「葵!」
健人は衝動的に呼び止めた。
「ん?」
屈託のない表情で葵は振り返る。
その向こう側で、夢で見たのと同じ、灰色のトラックが近づいてくる。
「危ない!」
健人は走り出した。トラックは猛スピードで葵に迫っている。
「どうしたの?」
立ち止まって首を傾げている葵に向かって、健人は必死に手を伸ばした。<つづく>
【次回…】
その後も彼女が交通事故に遭う夢を頻繁に見るようになった。それは決まって火曜だった。何か不吉な予感を覚え、いつの間にか僕は外に出るのが怖くなっていた