ネタが複雑で大仕掛けであればある程、書き手も編集者も、「フェア」と「アンフェア」に注意を払っている。明らかにアンフェアな記述があったら、「なんだよ、だったら何でもアリじゃん」と思われて終わってしまうからだ。極端なことを言えば、九十九箇所の伏線がフェアでも、一箇所アンフェアな記述があるだけで、全体の信頼度が下がるし、「フェア」ではないと思われてしまう。
そのくらいの危機管理意識を持って、プロの作家と編集者は原稿のチェックをしているのだ。
だから、読み終わったとき、「やられた」と驚いたにしても、「卑怯だ」と憤ったにしても、いや、そういうときこそ、すべてを分かった状態で頭から作品を読み返してみて欲しいのだ。
いかに細心の注意を払い、嘘にならない程度に、誤解を招く書き方をしているかが分かるはずだ。文字通り、一語一句おろそかにはされていない。
長江俊和の『出版禁止』は、このあたりのフェアとアンフェアのギリギリの狭間を突き詰めようと、何度も細かく打ち合わせを重ねた作品だ。既読の方も、「そういう目」で再読してみると、色々と発見があるのではないかと思う。
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