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偉そうな人にいばり散らかされた時、私は、その人の頭に小さな王冠をのせることにしている。
空想の中の、プラスチックの王冠。おりがみに1枚か2枚だけ入っている、特別なあの金色をした王冠。両端に小さな穴があいていて、そこに引っ掛けた輪ゴムで耳に固定する。輪ゴムがその人のシワシワの耳たぶを少し持ち上げる。そういうディテールまで細かく空想する。偉そうな人がいばり続ける間、私は、ずっと空想して待っている。
世界には、いばらないと死ぬ王さまのキングダムがいっぱいある。
王さまはいばらないと死ぬので、……正確に言えば、いばらなくっちゃナメられて殺されると思い込んでいるもようなので、いばるための材料をたくさんため込んでいる。
肩書き。
筋肉。
“知人の弁護士”。
ゴルフのスコア。
イタリアの靴。
いばらないと死ぬ王さまの話は、要するに、「俺様は強い」という内容だ。社会的に強い肩書き。肉体的に強い筋肉。人脈的に強い、知人の弁護士とか議員とか。
ゴルフやイタリアの靴なんかが好きなのはすてきなことだと思う。けど、「この程度のブランドも知らないようじゃ大人の男として……」みたいなやつが始まると、「あっ、なあんだ、本当に好きなわけじゃなかったんだあ」って、しょんぼりしてしまう。靴は、靴だ。武器ではない。自分が人より強いことを示すためのツールではない。自分の足で歩くときに守ってくれるもののはずだ。
だけどいばらないと死ぬ王さまは、自分の足で歩かない。
たとえイタリアの靴を履いても、自分の足では歩かない。
妻を蹴飛ばす。
部下を踏みつける。
運転手さんに偉そうにする。
そういう風にしないと守れない何かがあると思っているのだろう。なにせ、自分の足を守ってくれている靴を、「この程度のブランドも知らないようじゃ大人の男として」的な戦いの武器として使うやり方しかまだ知らないようなので。
やがて妻が倒れたとき、いばらないと死ぬ王さまは、洗濯機の柔軟剤投入口がわからずにゴワゴワのバスタオルで背中をふくしかない。
やがて部下が辞めたとき、いばらないと死ぬ王さまは、部下の心もソースコードも読み解くことができずに最近の若者の根性のなさのせいにするしかない。
それでイライラして、どこかのお店であたり散らかしたりする。いばらないと死ぬ王さまは、たくさんのお金を使う。みんなお金ににっこりする。そしてクラブホステスさんに「どうせ全部金のためなんだろう、汚い女だ」みたいなLINEしちゃってスクショを回され、「あたりめーだろ仕事なんだからwww」と笑われる。人の仕事を見下す王さまは、いつまでも、いつまでも、愛されない。