読みたい人、書きたい人のミステリ超入門

第5回 フェアとアンフェアの間(1)

あなたの周りで、ミステリファンが「フェア」だ「アンフェア」だと盛り上がっているのを耳にしたことはないだろうか。ミステリも、スポーツと同じで正々堂々勝負すること、つまりフェアプレイが重んじられる。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。

 あなたの周りで、ミステリファンが「フェア」だ「アンフェア」だと盛り上がっているのを耳にしたことはないだろうか。ミステリも、スポーツと同じで正々堂々勝負すること、つまりフェアプレイが重んじられる。そうした、「フェア・アンフェア論争」で最も物議をかもしたのは、アガサ・クリスティーの『アクロイド殺し』だろう。読み終われば、何が問題になったのかはすぐに分かるだろうが、できたら多少ミステリを読んでから、この作品にあたって欲しい。その方が、より楽しめるだろうし、議論の焦点がよく分かるはずだ。

 ミステリにおける「フェア」とは、どんなことを指すのだろうか?  一言で言ってしまえば、「(三人称の)地の文で嘘は言わない」こと。それに尽きる。
 と言われても、具体的にはピンと来ないだろうから、順を追って説明する。三人称に括弧をつけている理由は、後で述べる。
 まず、「人称」の確認から。一人称とは、「自分自身」、つまり「わたし」のこと。主人公の視点と主観を通して語られる世界が、一人称の世界だ。二人称とは、「あなた」。読者である自分か、作中の「聞き手」がそれに当たる。ただし、全編「あなた」に語りかける形で話を進めるのは難しいため、二人称の小説は少ない。
 そして三人称とは、わたしでもあなたでもない中立の第三者から見た世界、俗に言う「神の視点」である。誰かの価値基準や、偏った見方を排した、プレーンな記述が三人称だ。細かく言えば、三人称にも多視点と一視点があるが、ここでは、「三人称」とは誰かの主観の入らない客観的な視点、としておく。
 では、「地の文」とは何か?
 作品中における、台詞や引用を除いた部分のことである。もっとざっくり言えば、「カギ括弧」や〈山カギ〉、傍点(、、)など、特殊な印がない部分だ。
台詞でなくとも、記号と共に書かれる言葉は、何らかの特殊な意味や含みを持たされている。それらは、額面通りには受け取れない。
「三人称」「地の文」共に、要は「主観」じゃなくて「客観」であることが大事なんだ、と思ってもらえれば良い。

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新潮社
2018-03-16

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新潮社yom yom編集部 /新井久幸

ミステリ作家志望者、必読! 「新潮ミステリー倶楽部賞」「ホラーサスペンス大賞」「新潮ミステリー大賞」など、新潮社で数々の新人賞の選考に携わってきたベテラン編集長が考えるミステリの読み方・書き方の<お約束>とは――。電子書籍文芸誌「...もっと読む

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コメント

editor_of_SS 更新されてました。なんか、追い付かれそうで怖い。 1年以上前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 1年以上前 replyretweetfavorite