服も楽器も一緒。人は身につけているものに影響される

【未来の夢⑤】
大学ではよく話していたが、休日に会う彼女はまた違った雰囲気だ。家族のことや音楽のことを話しているうちに、普段とは違った彼女の魅力に惹かれていった
<WEAVERの河邊徹がドラムスティックからペンに持ち替えて描いた作家デビュー作!>

 
落ち合ったのが夕方からだったということもあって、買い物が終わって外に出ると、街はもう夜の空気になっていた。

「いやー結構長居してたんだね。外暗くなっちゃってるよ」

 葵が空を見上げて驚いたように言った。

「ホントだ。今月のベースブック立ち読みしてたら、結構時間たってたな」

「私、教則本ってあんまり読んだことなかったけど、読んでて全然飽きないんだね」

 駅の方へと歩きながら、飽きないね、と健人も言った。

「お腹空いたから、なんか食べて帰ろうよ」

 しばらく歩いたところで、葵が提案した。

「うん。じゃあお店探そっか」

 大学の食堂ではよく一緒に昼食を食べているが、こうして外で二人でご飯を食べるのは初めてかもしれない。

「なんか食べたいものある?」

「なんでもいいよー。なんか良さそうなとこ見つけたら入ろう」

 この辺りの店のことは何も知らないが、幸い選択肢に困らない程たくさんの飲食店が並んでいる。

「こことかどう? オシャレそうだし。東京って感じ!」

 健人は道沿いにあった、洒落たイタリアンの店の前で立ち止まった。

「いいね。そういえば私たち、大学では定食ばっかり食べてるよね」

 葵は笑いながら言った。店内に入ると、アンティークのテーブルと椅子が並べられていて、全体が柔らかい間接照明の光に包まれていた。
 カウンターの向こうには、ピザを焼くための大きな窯が見えている。客の中には、カップルもちらほらいるようだった。

 
 二人は案内された席に座り、メニューを受け取った。話し合いの結果、オススメのピザとパスタをシェアし合うことに決めた。

「いい雰囲気のお店だね。こういうとこ来たことある?」

 葵は、ウェイターに回収されなかった小さなメニューを眺めながら言った。店内はどこかで聴いたことのあるジャズが流れている。

「こんなにお洒落じゃないけど、俺地元のカフェでバイトしてたことあるよ。パスタとか作ってた」

「そうなんだ! 意外だね! あんまりバイトとかしなさそうなのに」

 どういう意味かわからないが、微妙に失礼なことを言われてる気がしたので、そうかな、とだけ言って追及しないことにした。

「健人って兄弟いるの?」

「いないよ。どうして?」

「いや、なんとなく」

「葵はいるの?」

 そういえばあまり家族の話は聞いたことなかったな、と思った。

「弟がいるよ。三つ下」

「ああーいそう」

「なんでそう思うの?」

「なんだかんだでしっかりしてるから」

 一見ふわっとして見える葵だが、根は真面目でしっかりしている。ウェイターが注文していたピザとパスタを運んできた。ピザには蜂蜜の入った瓶も一緒に添えられている。それをかけて食べるらしい。

「あのギター、音良かったね。葵に似合ってた。ちょっと高いけど」

「だよね! お金貯めないとなぁ」

 そう言いながらも、葵はにやにやしている。もうギターを買った自分を想像しているようだ。

「楽器を選ぶことって、服を選ぶことに少し似てる気がしない?」

 葵が思いついたように言った。

「そう? どの辺が?」

「例えばね、音はもちろん大事だけど、自分に似合う色じゃないと楽器もダメだと思うの」

 うんうん、と健人は頷いた。ピザを一切れ取ろうとしたら、溶けたチーズが隣の一切れとくっついて、二切れ一緒に取ってしまった。

「そして、シルエットも大事。楽器の形は、その人の人間性と合ってないと違和感があるの」

「なんか急に深い話だね」

「でもそう思うでしょ?」

 葵はいつになく、キリッとした目つきで言った。

「うん、言われてみればそう思う。それと、最初は違和感があっても、長く使ってると段々似合ってくるってこともあるよね」

「それもあると思う。それはきっと、楽器に人が育てられてるんだよ」

「どういう意味?」

 新しい感覚の言葉だった。

「楽器が持ってる魂に段々人が影響されて、その人がその楽器に似合うようになっていくの」

「ちょっとスピリチュアルな話かも」

「魂って言うとそうなっちゃうね。でも、人は身につけてるものに影響されるんだよ。だから服と同じ」

「なるほどね」

「時代が変わっても、かっこいいものはかっこいいっていうのも服と同じかな」

 元古着屋店員がもっともらしいことを言う。元カフェ店員では敵いそうにもない。

 それからも二人はご飯を食べながら、お互いの家族のことや音楽のことを話した。

 食べ終わって外に出た頃には、結構遅い時間になっていたが、都会の夜はまだまだ騒がしい。たくさんの人が道を行き交っている。

 帰り道の電車の中でも話は尽きず、今まで知らなかった葵のことをたくさん知ることができた日になった。流れる窓の外の景色を眺めながら、楽しい時間だったな、と健人は思った。

「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しい時間だったなー。また一緒に来ようね」

 こんな風に、なんでも素直に言葉にしてくれるのが葵だ。

「うん、また来ような」

 ただ楽器屋に行っただけなのに、まるで遊園地帰りのように気持ちは満たされていた。<つづく>

【次回は…】
バンドの練習後にメンバーでいつも寄る焼き鳥屋で、なにげなく話題になった「夢」の話。僕の「同じ夢を繰り返し見ることは、何か意味があるのかな」という質問に対して、彼女は「あると思うよ」と答え、話し出した「願いをかなえる夢の話」。普段は興味のない話だが、なぜだかその話が頭にひっかかった


この連載について

初回を読む
夢工場ラムレス

河邉徹

WEAVERのドラマー・河邊徹の作家デビュー作。バンドで作詞を担当してきた河邊の 〝言葉の世界〟をドラムスティックからペンに持ち替え、描いた「夢」をテーマにした長編作。 ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

kwb_wvr 健人くんと葵ちゃん、お話しします。   https://t.co/DbLVYtSiPF #夢工場ラムレス #WEAVER #小説 #本 2年以上前 replyretweetfavorite