名刺ゲーム

自分が思っている罪悪感と相手が感じている意識はイコールじゃない

いまや顔も覚えていないクイズ作家・木山光に対して自分が行った仕打ちを思い出した神田。それは夢を抱いていた彼のレールをポキッと折るような出来事だった。小さな罪悪感とともに木山に名刺を返した神田は、その瞬間、信じられない事実を知ることになる。「このThe Nameのもとになったゲーム、木山さんが考えたんですよ」。木山はいつからこの事件に拘わっていたのか!? グサリとくる台詞に出会える『名刺ゲーム』!


—クイズ作家さんとの会議はどんな風にやってるんですか?

—僕と作家とスタッフで集まって、作家からの問題案を見ます。

—全員で見るの?

—作家全員が出したものをまとめて、僕だけが見ます。

—あなただけ?

—コピー代もバカにならないし、コピー時間が減るだけでADの作業も減ります。

—あなただけがチェックできるんだ、全部。

 俺だけがチェックする。全員で資料を見て決めていくよりも、自分が最初に引っかかったものを広げていく。ダメな会議はみんなの意見を聞きすぎるんだって分かったから。昔の俺の会議のように。

—じゃあ、作家が出したアイデアは全部あなたの脳に入るんだ。

—そりゃそうです。

—毎週沢山のクイズ案があなたの中で混ぜこぜになっちゃうことない?

—ないですって。

—誰が提出したクイズだったかまで、全部覚えてるんだ? さすが優秀だ。感心。

 感情を生み出すのは脳の扁桃体という部分。あいつのこの問いかけが俺の扁桃体から罪悪感を引き出した。日々生活している中で、罪悪感は生まれる。例えばトイレで小をしたあとに手を洗わないで出ていくことにさえ罪悪感は生まれる。だけど、こんな罪悪感はすぐに消える。日々感じている罪悪感も脳が処理してるものと、記憶とともに保存してくれているものとある。

 ありがたいことに顔も覚えてない作家に対する小さな罪悪感とともに、脳は保存しておいてくれた。あいつの問いかけで、その記憶が脳の奥から湧き出てきた。あれだ。あのことだったんだ。

—質問、してもいいですか?

—今回はキャンセルなしですよ。

—しません。あなたが私に奪われたのは何色のどんな花ですか?

—その質問でいいんですね?

—はい。

 もし木山光が俺のことを恨んでいる理由があのことだとするなら、答えは一つ。

—皆さん、この質問を聞いて一番最初に頭に浮かんだ花と色を答えてください。素直に。

 俺の目を見た奴とそらした奴がいた。俺の目をまっすぐに見た一番左の太った男が答えた。

—ピンクの桜です。

 二番目の筋肉質の男は俺を睨み、ぶつけるように答えた。

—真っ赤なバラだよ。

 三番目の女は下を向いて答えた。

—白い百合です。

 四番目の巨神兵は俺からさっと目をそらし、手錠につながれた和也を見ながら答えた。

—青いバラです。

 四人とも答えは違った。

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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