「中二病」の時期しか変われない
羽賀翔一(以下、羽賀) 吉野源三郎さんは、開戦間近の不安定な情勢下で、なんとか子どもたちに良い生き方を模索してもらうために『君たちはどう生きるか』を書かれた人だと思います。瀧本さんの場合は、どんな使命感で『ミライの授業』を書かれたのでしょうか。
瀧本哲史(以下、瀧本) 吉野さんと同じですよね。『君たちはどう生きるか』から80年。世界は大きく変化したけど、結局ほとんどの人はまだそれに気づいていないという問題意識が私にはあって。
羽賀 なるほど……。
瀧本 特に中高年の多くは、前時代のやり方や価値観にしがみついてばかりいる。そういう今の時代というのは、吉野さんが本を書いた1930年代末とよく似ているのかもしれません。私は「新しい時代には新しい教養があるはずだ」と信じているので、それをなんとか若い人に伝えたくてこの本を書いたんです。正直、もう大人には期待できないから(笑)。
羽賀 期待、できませんか。
瀧本 40代・50代の人に、今から価値観を入れ替えろと言ってもまず無理ですよね。大学生でもすでに厳しい。新しい価値観をすんなり受け入れられるのは、やっぱり14歳くらいだと思う。「中二病」なんて言葉があるのも、その時期が一番、新しい考え方に刺激されやすいからでしょう。
吉野さんも、子どものうちしか柔軟には変われないと感じていたからこそ、コペルくんをこの年齢にしたんじゃないかな。ちなみに羽賀さんは、漫画を描くときに、読み手の年齢層のことは意識しましたか?
羽賀 瀧本さんとは違って、あまり考えなかったんです。子どもにも読みやすいように、ということは意識していたんですけど。というのも、僕はコペルくんのおじさん目線にはなれなかったからなんです。あくまでコペルくん側の感覚で原作を解釈して、「よかった」と思うところを表現していく、というやり方を僕はしていたと思います。
瀧本 なるほど。そこが、漫画の間口を広げた要因のひとつかもしれません。この漫画を手に取った人は、実年齢がいくつだろうと、コペルくんに自分を重ねるでしょうからね。
「女子力」に負けないための『ミライの授業』
瀧本 年齢の話が出たので、ちょっと性別の話にも触れておきたいです。じつは、『ミライの授業』はかなり「女子読者」を意識しました。もちろん性別問わず読んでほしいんですけど。
羽賀 言われてみればたしかに、サッチャーとかJ・K・ローリングとか、女性の偉人が多く取りあげられていますね。何か理由があったんですか?
瀧本 前回も言ったとおり、この本の下敷きは全国の中学校で行った講義です。その過程で、「この年代だと、女の子の方がより野心的だったり、挑戦的だったりするな」と感じたんですね。講義が終わったあとに、顔を輝かせて「私も何かやってみようと思いました!」なんて言ってくれるのは決まって女の子だった。だから、そういう子こそが第一のターゲットだと考えました。
羽賀 中学生くらいのときって、女の子の方が大人っぽかったりしますもんね。
瀧本 そうそう。男子中学生なんて小猿の群れみたいなところありますよね(笑)。ただね、女の子の場合、高校生になると今度は急に失速するんですよ。女子としてああしなきゃこうしなきゃ……みたいな外圧、同調圧力に負けちゃう。「女子力」なんて言葉があるのもそのせいでしょう。
でも、そこで彼女たちが「私は、周りがいいと言うものじゃなく、自分がいいと思うものを選ぶわ」という姿勢を貫けたらどうなるか。10年後にはその中から変革者が現れますよ。『ミライの授業』には、その後押しをしたいという願いも込めたんです。
羽賀 なるほど。そこは、男の子っぽい世界観で展開していく『君たちはどう生きるか』とは違うポイントですね。
「キャラ」が見えなければ、勉強も漫画も面白くない
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。