たのしく たのしく かわいくね

世の女性たちがなんとなく共有する、誰もが知るおじさん著名人たちへのファジーな嫌悪感の正体に迫る新連載「ニッポンのおじさん」。
第11回は、「週刊文春」に不倫疑惑が報じられたことで、今年1月に引退発表をした小室哲哉さん。
安室奈美恵さんをはじめ小室ファミリーの影響化で学生時代を送ってきた鈴木涼美さん世代にとって、小室さんはどのような存在なのか。同じく音楽シーンを牽引してきたつんく♂さんとの比較をまじえ、考察します。

1995年のMステ特番

 人生が楽しくなるのって大体15歳からだと決まっているので、お酒もタバコもセックスも知る前の、小学校高学年から中学に入るくらいの年頃の児童たちにとって、震えるほどの楽しみというと基本的にはステージの上や画面の中にしかない。ということで、そういう半分フィクショナルな事象を牽引する歌番組やライブというのは結構重要な意味を持つ。インターネットで自分の欲しい情報が簡単にとれる今の時代の子供も楽しいだろうが、限られた情報源からみんなが同じ情報を取っていた時代も結構楽しかった。学校の教科書に載っていた「赤い実はじけた」「ちいちゃんのかげおくり」は多くの国民の共通の思い出だが、それと同じかさらに上をいくくらい「宇多田ヒカルが初出演した時のMステ」「HEY! HEY! HEY! の松山千春」みたいな共通の思い出があるわけで。

 そんな意味で、同世代なら多くの人が見ていたであろう1995年のMUSIC STATIONスーパーライブは、有賀さつきとアナウンサーを交代する直前の下平さやかが「このあとすぐ」の掛け声を発したあと、安室奈美恵とEAST END ×YURIで賑やかに幕を開けた。L/Rとかフィールドオブビューとか90年代のJPOPを彩り90年代のJPOP以外はそんなに彩っていない神たちのほか、工藤静香があんまり誰も知らない名曲「7」を歌ったこととか、中森明菜が昭和感しかないオレンジのスーツで登場し、「Tokyo Rose」と曲名も昭和感しかない歌を披露したこととか、6人時代のSMAPが中継でドラマ「人生は上々だ」の主題歌を歌ったとか、見るからに酒気帯びで登場した米米CLUBが途中で演奏をやめてものすごくエッチな「露骨にルンバ」を歌い出したとか、スポットCMでブレイク直前の相川七瀬のデビュー曲が流れたとかいうおまけまでついて、多くの伝説を残した。

 そして、そんな年末の大舞台のオープニングで、大量のゲストが次々にステージ上の大階段を降りて登場する中、どんな手を使っても誤魔化しきれない感じでド派手に転んだ人がいた。全ゲストの中で最後から二組目に登場したglobeのメンバーであり、他の出演者であったTRFや安室奈美恵のプロデュースも手掛けていた小室哲哉である。

 ゲスト登場のアナウンスをしていた有賀さつきが思わず「小室哲哉さん、大丈夫ですか」と声をかけると、ご本人とても照れ臭そうにはにかんで「ごめんな、さーい」なんて可愛く返す。95年の音楽シーンのほとんど唯一にして絶対の主役と言えたプロデューサーは、大観衆の前で尻餅をつくような迂闊さでもって、単にイケてるとか納税額がすごいとか多忙とか曲が最高とかいうだけでなく、カワイイという万能な評価まで手に入れていた。要するに、大変愛されキャラだった。

「かわいい」天皇と小室哲哉

 昭和天皇崩御の際に、皇居前の少女たちに共感的に芽生えた天皇への印象を「かわいい」と表現したのは大塚英志だが、週刊誌報道を受けて開いた記者会見で、音楽活動からの引退を表明したTKを目の当たりにした私たち元小室ファミリー信者の感覚は、それに通ずるものがあった。そして彼の姿を見て、孤独や疎外感に共感し、よくわからない何かに怒り、時代のスピードが怖くなった私たちの感覚は、かつて小室ファミリーの曲を聴いてパフォーマンスを見て得た感覚と対極にある。

 95年に年末特番にかじりついていた私たちの多くが感じていたのは、圧倒的な退屈とちょっとした不満や不完全燃焼感、そして焦りだった。「なんか楽しいことないかな」と「このまま終わりたくない」の狭間で、踊れ踊れの合図に素直に従って、踊らされていることなど百も千も承知で踊りまくった。

 バブル経済なんかに散々裏切られたのに、よく手放しで踊らされたものだと思うが、踊らされて後悔することへの尻込みより「このチャンスだけ逃したくないよ」な気分が上回る、そんな時代だったように思う。みんな今ほど現実的ではなかったし、みんな今ほど閉塞感がなかった。そして何より、踊れの合図の中心にいるおじさんは、無垢で、迂闊で、無邪気な天才、そしてどこかかわいい人だった。「空回るがんばりで許されてた現実は怖いな」なんてさらっと歌ってしまう草野マサムネが、無邪気なふりをした天才だとしたら、TKは確実にコンピューターのふりをした無邪気な天才だった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ニッポンのおじさん

鈴木涼美

どこか物悲しく、憎めないおじさん。男にリスペクトされる好感度高い系おじさん。こじらせおじさん。新しい価値観で社会を斬るおじさん。そして日本社会を動かすおじさん。彼らはなぜ〈おじさん〉になってしまったのか。彼らの何が〈おじさん〉たる所以...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

tatsuya1965 「言っておくけど、おじさんは基本的にかわいくない。臭いし、下品だし、偉そうで、勘違いで、イライラする。」はーい。 1年以上前 replyretweetfavorite

tipi012011 『草野マサムネが、無邪気なふりをした天才だとしたら、TKは確実にコンピューターのふりをした無邪気な天才だった』。この下りが好き。 1年以上前 replyretweetfavorite

rabbit0529 独特な経歴が誤解を生む著者だが、元新聞記者で社会学修士号を併せ持つパフォーマンスを随所に示している。 https://t.co/mr9BSYpMVr 1年以上前 replyretweetfavorite

a068805 「かわいい」天皇と小室哲哉 っていう小見出しに動揺している。 1年以上前 replyretweetfavorite