精神医学者のジークムント・フロイトを知っていますか? 「無意識」を発見した人物としてよく知られています。「無意識」を発見するって、考えてみたら不思議なことです。意識されないものが無意識のはずであり、そうだとしら「無意識」というものは、意識したり発見したりできないはずです。でも、私たちは、時々「無意識のうちにやっちゃった」みたいな言い方をします。感じられない何かによって突き動かされているという考え方は、フロイトにまでさかのぼることができるのです。
フロイトの理論がマーケティングに活用されたことがあることは、ご存じでしょうか? これが、今日、紹介するモチベーション・リサーチというものです。
モチベーション・リサーチとは、1950年代のアメリカで盛んに行われた市場調査の方法です。具体的には、深層インタビューという方法を使います。これは、時には数時間もかけて、消費者からじっくり話を聞くことで、消費者の潜在的な動機を明らかにしようとするものです。
この「モチベーション・リサーチの父」と言われたのが、アーネスト・ディヒターという人物です。フロイトのもとで学んだディヒターは、その知識をマーケティングに活かします。230以上の様々な製品についての深層インタビューを行い、得られた知識をマーケティング戦略に落とし込んだのです。
フロイト理論がマーケティングに活用されるときに強調されたのは、製品が性的な象徴である、ということです。例えば、中年の男がスポーツカーを所有するのは、性的満足の代用である、といった解釈の仕方です。一体どういうことでしょうか?
『Getting Motivated』という本で、ディヒターはクライスラーのショールームで行った実験を紹介しています。オープンカーとセダンを別々のショールームに展示して、お客さんが、どっちを見に行くのかを比較したのです。オープンカーを見る人の方が、セダンよりも6〜7倍も多いという結果になりました。しかし、クライスラーの売り上げ構成に占めるオープンカーの割合は、わずか2%しかありません。魅力的なのに売れないのはどうしてでしょうか?
ディヒターは着目したのは、実際にオープンカーを買うのは、若い未婚の男であるという事実です。また、45〜50歳の世代の男たちもオープンカーを買うことも発見しました。この事実から、ディヒター独自の解釈が始まります。
オープンカーは若さの象徴だ。男というものは、愛人を持ちたいという秘めた願望がある。オープンカーを買うという行為は、愛人と関係を持つことの罪悪感を感じることなく、浮気をしたいという願望を実現することだ。しかし、たいていの男は、安定しており無難な「妻」であるセダンを買う。オープンカーを買う、つまり「愛人」を持つことは夢物語でしかない……。
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